6G時代に求められる多数接続性能を実証

〜量子コンピュータを利用した同時通信に成功〜
2026年1月15日

国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

  • 6G時代に通用する量子コンピュータを古典コンピュータにハイブリッドした信号処理手法を開発
  • 6G時代に求められる多数接続性能を満たす、基地局とデバイス10台の同時通信を屋外実験によって実証
  • ドローン、ロボット、XRデバイス等、6G時代の多様なマシン間通信の実現へ
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICTエヌアイシーティー、理事長: 徳田 英幸)は、アニーリング型の量子コンピュータ(以下「量子アニーリングマシン」)を古典コンピュータにハイブリッドした新たな信号処理手法(以下「本手法」)を開発し、これを基地局に搭載することで、次世代移動通信システム(6G)時代に求められる多数接続性能の実現につながる10台のデバイスとの同時通信を屋外実験によって実証しました。
6Gでは、ドローン、ロボット、XRデバイス等の多様なデバイスの登場により、接続デバイス数の爆発的増加が想定されており、デバイス密度を第5世代移動通信システム(5G)と比較して10倍以上にすることが求められるとされています。本手法は、5Gだけでなく、6Gでも採用が想定されるマルチアンテナ・マルチキャリア伝送を前提にし、同時通信時に基地局で必要となる組合せ最適化計算を量子アニーリングマシンで行ったもので、屋外実験において10台のデバイスとの同時通信を実現しました。これは、従来困難であった多数のデバイスとの同時通信における信号検出を達成し、6G時代に要求される多数接続性能の実現に大きく貢献する成果です。本成果は、ドローン、ロボット、XRデバイス等、6G時代の多様なマシン間通信で利用されることが期待されます。
なお、本成果は、2026年1月9日(金)に、国際会議「IEEE Consumer Communications & Networking Conference (CCNC) 2026」で発表されました。

背景

ドローン、ロボット、XRデバイス等の普及を背景に、6Gでは上り回線における多数接続性能の高度化が求められており、現在の5Gと比較して、接続デバイス密度を10倍以上へ向上することが期待されています。その実現に向けて注目されている技術の一つが、非直交多元接続方式です。5Gでは、同じ周波数・時間で1本の基地局アンテナにつき1台のデバイスしか通信できませんが、この方式では複数のデバイスが同時に通信できます。ただし、基地局では、複数デバイスからの信号が重なって届くため、それぞれを検出する必要があります。デバイス数をK、デバイスが送信する信号の種類数をMとすると、デバイスが送信する信号の組合せはMK通りに増加します。その結果、デバイス数が増えるほど計算量が急増し、処理遅延が大きくなるという課題があります。
本成果に先駆け、量子アニーリングマシンと古典コンピュータとを併用した信号処理手法(以下「旧手法」)を開発しました(関連する過去のプレスリリース参照)。この手法では、量子アニーリングマシンを用いて送信信号の組合せに関する問題を高速に処理しつつ、古典コンピュータによる事後処理で検出処理に必要な確率分布を算出していました。これによって、検出精度と処理速度を両立することが可能となりました。一方で、旧手法はごく限られた通信システムでしか有効性が立証されておらず、特に6Gでも採用が想定されるマルチアンテナ・マルチキャリア伝送における効果については未解明でした。

今回の成果

図1 量子アニーリングマシンを古典コンピュータにハイブリッドした新たな信号処理手法
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NICTは、旧手法をさらに発展させて、6Gで想定されるマルチアンテナ・マルチキャリア伝送にも適用可能な「量子アニーリングマシンを古典コンピュータにハイブリッドした新たな信号処理手法」を開発しました(図1参照)。本手法は、マルチアンテナ・マルチキャリア伝送だけでなく、レファレンス信号を用いた通信環境の推定といった、現在の移動通信システムで不可欠な技術要素を取り込むことで、6Gに適用可能な手法へと拡張されています。
屋外実験を行う前に、「基地局における受信アンテナ4本、QPSK信号(M=4)、接続デバイス数8台(K=8)」という条件で計算機シミュレーションを行い、本手法の動作検証を実施しました。これは、48通り(≒6万通り)のデバイスが送信する信号の組合せから、最も適切な解を探索する問題になります。なお、この実験においては、アニーリング手法としてはシミュレーテッド量子アニーリング(以下「SQA」)を用いました。その結果、現在広く用いられている近似手法(以下「LMMSE」)と比べて、本手法が高い検出性能を有することを確認しました(図2参照)。
次に、本手法を無線通信実験系の基地局に実装し、屋外における電波発射実験を行いました(図3参照)。シミュレーションと同じく「基地局における受信アンテナ4本、QPSK信号(M=4)、接続デバイス数8台(K=8)」という条件下で、アニーリング手法としてはSQAとD-Wave量子アニーリング計算機の2つの手法に対して評価を行いました。実験の結果、本手法によって、SQAとD-Waveの双方の場合において、誤り率ゼロで信号検出可能であることを示しました(図4参照)。さらに実験を進め、10台のデバイスとの同時通信が可能であることも確認しています。これは、6Gで期待される多数接続性能の向上、すなわち「5Gと比べて接続デバイス密度10倍」の実現に本手法が貢献できることを実証したものです。
図2 計算機シミュレーションによる本手法と従来手法(LMMSE)との比較
青がLMMSEで、赤がSQAによる計算結果。グラフが下にいくほど検出性能が高い。 「通信路推定」と記載している曲線はレファレンス信号を使用して通信環境の推定を行ったもの。
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図3 屋外における電波発射実験の様子
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図4 屋外実験による本手法とLMMSEとの比較
青がLMMSE、赤がSQA、緑がD-Waveによる計算結果。グラフが下にいくほど検出性能が高い。
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今後の展望

今回の成果は6G時代に求められる多数接続性の実現に向けた大きな一歩となるもので、ドローン、ロボット、XRデバイス等、6G時代の多様なマシン間通信への応用が期待されます。今後、更なる大規模多数接続に向けた実証を進めていきます。

論文情報

著者: Kouki Yonaga and Kenichi Takizawa
論文名: Over-the-air Demonstration of Quantum-Annealing-aided Multi-user Detection in MIMO-OFDM Systems
国際会議: IEEE Consumer Communications & Networking Conference (CCNC) 2026

関連する過去のプレスリリース


なお、本研究の一部は、総務省戦略的情報通信研究開発推進事業電波有効利用促進型(先進的電波有効利用型)「量子アニーリングを用いた端末間干渉抑圧処理による超多数同時接続技術に関する研究開発」の一環として、JP235003004の助成を受けて行われました。

用語解説

量子アニーリングマシン 量子コンピュータは、「ゲート型」と「アニーリング型」の二つに大きく分けられる。このうち、アニーリング型の量子コンピュータのことを量子アニーリングマシンと呼ぶ。「アニーリング型」は、東京工業大学・西森秀稔教授が1998年に理論を提唱し、カナダ・D-Wave社が2010年頃に世界で初めて実装した量子計算機である。金属の焼きなまし処理(アニーリング)と同じような処理を量子の物理現象で行うことで、最小エネルギー状態の探索を行う。量子アニーリングは、組合せ最適化問題の解を効率良く見つけるのに適していると言われている。 元の記事へ

古典コンピュータ ビット(0又は1)を用いた論理回路で演算を行うコンピュータのこと。身の回りにあるスマホやパソコンのほか、スーパーコンピュータを含む従来型のコンピュータを含めて、特に量子コンピュータと比較する際、古典コンピュータと呼ばれる。 元の記事へ

次世代移動通信システム 6Gのような2030年以降の次世代移動通信システムについては、2023年にITU-Rが発行した“Framework and overall objectives of the future development of IMT for 2030 and beyond(ITU-R M.2160-0)”において、期待されるユースケースや必要とされる機能が示されている。多元接続性能に関しては、5Gと比較して10倍以上とすることが目標数値として示されている。 元の記事へ

マルチアンテナ・マルチキャリア伝送 マルチアンテナ・マルチキャリア伝送とは、複数のアンテナと複数の狭帯域信号(サブキャリア)を同時に用いてデータを送受信する伝送方式である。送信側および受信側の双方に複数のアンテナを用いることで、通信速度の向上や通信品質の安定化が可能となる。これをマルチアンテナ(MIMO: Multiple-Input Multiple-Output)技術と呼ぶ。一方、マルチキャリア伝送では、周波数チャネルを狭い帯域幅を持つ多数の信号(サブキャリア)に分割し、複数のサブキャリアにデータを分割して送信する。これにより、周波数ごとの伝送特性の違いに強くなり、通信の信頼性が向上する。代表的な方式として直交周波数分割多重(OFDM: Orthogonal Frequency Division Multiplexing)がある。 元の記事へ

組合せ最適化問題 膨大な選択肢の中から最適な選択肢を選択する問題のことを指す。身近な例を挙げると、電車の乗換検索で、出発地から目的地までの最短経路を求める問題がある。組合せ最適化問題は、規模が大きくなると組合せの数が指数関数的に増加し、最適な選択肢を見つけ出すことが難しくなるという特徴がある。 元の記事へ

非直交多元接続技術 無線通信において、基地局と複数デバイス局との通信で、干渉が生じないように時間や周波数の割当てを行う(=直交多元接続技術)のではなく、デバイス局間の干渉を許容する代わりに同時接続台数を増大させる技術のこと。基地局では、複数デバイス局から送信された信号を重畳して受信することから、その信号の組合せを分離する処理が必要になる。なお、2023年にITU-Rが発行した“Framework and overall objectives of the future development of IMT for 2030 and beyond(ITU-R M.2160-0)”において、次世代移動通信システムにおける多元接続技術の候補として、非直交多元接続技術が示されている。 元の記事へ

QPSK信号 デジタル無線通信では、送信したい2値の0/1データのそれぞれに対して、異なる電波の状態を割り当てる(変調する)ことによってデータを送信する。1回の変調で作れる信号波形(シンボル)に対して、割り当てることが可能な状態数を変調多値数(M)と呼ぶ。例えば、QPSK(Quadrature Phase-Shift Keyingの略。位相が90度ずつ異なる四つの位相(例: 45度、135度、225度、315度)に送信ビットを割り当てる。)信号は1シンボル当たり2ビットを割り当てることができるので、変調多値数Mは4となる。 元の記事へ

SQA(Simulated Quantum Annealing) 量子アニーリングの振る舞いを古典コンピュータ上で模擬的に再現する手法である。量子効果を数値的にシミュレーションすることで、最適化問題の解探索を行う。実際の量子ハードウェアを用いずに量子アニーリングの特性を評価できるため、アルゴリズムの解析・比較・理論検証などに広く利用されている。 元の記事へ

LMMSE(Least Minimum Mean Square Error) LMMSE(線形最小平均二乗誤差)とは、受信信号と推定信号との差分(誤差)の二乗平均を最小化するように設計された線形推定手法である。この手法は、干渉と雑音とを統計的に考慮してバランスよく抑圧できるという特徴を持ち、計算量と性能のバランスが良いことから、大規模通信システムや多数接続における検出手法として広く用いられている。 元の記事へ

本件に関する問合せ先

ネットワーク研究所
レジリエントICT研究センター
サステナブルICTシステム研究室

世永 公輝、滝沢 賢一

広報(取材受付)

広報部 報道室