概要
防衛大学校、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、名古屋大学の研究グループは、日本国内4か所のイオノゾンデの40年以上にわたる観測データを解析し、ブラックアウトの発生しやすさには太陽フレアの規模だけでなく、フレア発生前の電離圏の状態が強く依存していることを突き止めました。本共同研究グループは、この「電離圏の状態」を定量的に示す新しい指標 𝑓𝐵を定義し、この指標を用いることでブラックアウト発生の予測精度が劇的に向上することを確認しました。本成果は、より信頼性の高い宇宙天気予報の実現に貢献し、航空無線や防災無線など、社会基盤を支える短波通信の安定運用につながることが期待されます。
本プレスリリースは、地球電磁気・地球惑星圏学会(SGEPSS)が本共同研究グループによる論文を「プレスリリース論文」として選定して発表するものです。
背景
電離圏の反射を利用している短波通信は、航空機無線や災害時の長距離通信に使用されています。しかし、太陽フレアによって短波通信が使用困難となるデリンジャー現象(SWF)が発生することがあります。最悪の場合、全ての短波通信が途絶するブラックアウト(図1)に至ります。従来のSWF予測は、主に太陽フレアの規模(フレアクラス)に基づいて行われてきました。しかし、同規模のフレアでもブラックアウトの発生有無や継続時間にばらつきがあり、フレアクラスのみでは十分な予測ができないことが課題となっていました。
今回の成果

図1 フレア発生前後のイオノグラムとブラックアウト予測パラメータについて
本研究では1981年から2024年にかけて日本国内のイオノゾンデ観測でとらえられた多数のSWF事例を統計的に解析しました。その結果、SWF事例とブラックアウトには季節依存性があることがわかりました。また、世界中でオーロラが見られた2024年5月のSWF事例を詳細に分析したところ、5月11日には「負相嵐」が発生しており、この時のブラックアウトの継続時間は沖縄(図1右上)で35分間、負相嵐の影響が顕著であった稚内(図1左上)で約105分間であったことがわかりました。これにより、電離圏の状態がブラックアウトの発生しやすさや継続時間に大きく影響していることが判明しました。そこで、フレア発生直前のイオノグラム(F2層臨界周波数 𝑓𝑜 𝐹2と最小反射周波数𝑓𝘮𝘪𝘯)から、「ブラックアウトになりやすい電離圏の状態」を表す新指標𝑓𝐵を定義しました。この𝑓𝐵をSWF予測に組み込むことで、SWFの規模を再現できるだけでなく、ブラックアウト発生の予測精度が劇的に向上することを実証しました。
今後の展望
新指標𝑓𝐵は、既存のイオノゾンデ観測網からリアルタイムで取得できる情報に基づいています。将来的に、この指標を宇宙天気予報システムに組み込むことで、ブラックアウト発生のナウキャスト予測精度向上が期待でき、通信障害に備えた事前対策がより効果的になります。なお、本研究結果の詳細については、地球電磁気・地球惑星圏学会 2025年秋季総会・講演会(2025年11月25日、神戸大学にて開催予定)で発表される予定です。
発表情報
- 学会:地球電磁気・地球惑星圏学会 2025年秋季年会
- 著者名:北島 慎之典, 渡邉 恭子, 陣 英克, 垰 千尋, 増田 智, 西岡 未知
- 発表タイトル:イオノゾンデによるブラックアウト予測パラメータの導出
- 発表日:2025年11月25日
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