面発光レーザ(VCSEL: Vertical Cavity Surface Emitting Laser)
面発光レーザ(VCSEL: Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser)は、レーザ光を垂直方向に放射する半導体レーザの一種。通常半導体レーザはチップの端から光を放出するが、VCSELはチップ表面に垂直な方向に光を放出する。この構造は、コンパクトでエネルギー効率が高く、量産性に優れている点が特徴である。レーザの配列化や高密度実装が可能なため、光通信、光センサ、3Dセンシング(顔認識や自動運転)など、多岐にわたる応用分野で使用されている。さらに、大量生産による低コスト化が可能なことも特徴である。これまで、電流で駆動できるVCSELは波長850 nmや940 nmの近赤外領域が一般的で1,550 nm帯のVCSELは電流駆動が難しいとされていた。
元の記事へ
量子ドット
量子ドットはナノスケールの半導体粒子で、非常に小さいサイズ(10 nm程度)の中に電子を閉じ込めることができる。量子ドットは特定の波長の光を吸収、放出することができるため半導体レーザ、発光ダイオード、バイオイメージング、太陽電池など多くの応用分野で活用されている。量子ドットのサイズを調整することで発光する波長を変化させることが可能であり、電子を狭い場所に封じ込めることによる発光効率の向上も特徴である。
元の記事へ
分子線エピタキシー、結晶成長
分子線エピタキシー(MBE: Molecular Beam Epitaxy)は、半導体材料の高品質な薄膜を原子レベルで制御しながら成長させる技術の一つ。この結晶成長法は、真空装置の中で加熱された材料から原子や分子が蒸発し、半導体ウエハに到達したところで結晶化する。これにより、結晶構造や材料の比率を正確に制御することが可能となり、異種材料の組合せや極めて薄い多層膜構造の作製が行える。MBEは、量子ドットや量子井戸の作製、次世代デバイス開発において重要な役割を果たし、光学特性や電子特性の調整に広く用いられている。また、成長中の膜をリアルタイムでモニタリングできることも特徴で、研究開発から最先端の半導体製造まで幅広く応用されている。
元の記事へ
高反射率半導体多層膜
屈折率の高い材料と屈折率の低い材料を適切な厚さで積み重ねると、高い反射率をもつミラーを作ることができる。VCSELを実現するためには半導体材料でこれを行う必要があるが、光ファイバ通信波長帯で用いられる半導体材料で行おうとすると、材料の組成を高精度に制御しなければならないという技術的な難しさがあった。今回はNICTが開発した分子線エピタキシーを用いた結晶成長技術により、この課題を解決した。
元の記事へ
トンネル接合
半導体のトンネル接合は、トンネル効果を利用した特殊な接合構造で、ナノスケールで電子の移動をコントロールすることができる。トンネル効果を簡潔に表すと、絶縁体のように電気を流さない物質であっても、ナノメートルオーダーまで薄くすると電子がすり抜けることができるようになるというものである。トンネル接合は、高速な電子の移動やエネルギー効率を向上できることから、トンネルダイオード、トンネルFET、量子コンピュータの素子、太陽電池などに応用されている。今回のVCSEL作製では、この効果をうまく取り入れることにより、電極のない窓となる部分に電流を集中させ、効率的な発光と光の取り出しを両立させる構造を作製した。

図3 (a)トンネル接合のない場合、電流は電極の下に向かって流れ、量子ドットのところで発光するが、電極が邪魔になって光が外に取り出せない。(b)トンネル接合のある場合、電流の流れる方向を変えることができるため、電極のないところに向かわせてそこで発光させることで光が取り出しやすくなる。
元の記事へ
しきい値電流
半導体レーザのしきい値電流(Threshold Current)は、レーザが安定した光を発振し始めるために必要な最小の電流値を指す。半導体レーザでは、電流を流すことで光が発生する。この光がレーザとして増幅されるには、チップ内での光強度が増加する現象が光の損失を上回る必要がある。しきい値電流は、この条件を満たすために必要な電流の値である。しきい値電流は、材料の特性や構造、温度によって影響を受ける。例えば、優れた材料や設計によって電流が光に変わる効率がよくなったり、光の損失が低減されると、しきい値電流が下がる。量子ドットは電流が光に変わる効率を高める効果がある。低しきい値電流は、消費電力の削減やデバイスの寿命向上に寄与するため、特に安定で低消費電力が求められる応用分野で重要とされている。
元の記事へ