東京大学地震研究所(東大地震研)、名古屋大学環境学研究科(名大)、情報通信研究機構(NICT)、気象庁気象研究所(気象研)、弓削商船高等専門学校(弓削商船)及び高知工業高等専門学校(高知高専)は、標記の研究を平成28年度から5年計画で開始しました。
研究代表者(東大地震研・加藤照之教授)を中心とする研究グループは、宇宙技術を活用した新しい海面変位計測装置としてGPS津波計を開発してきました。東日本大震災時には、国土交通省港湾局がGPS波浪計として東北地方を含む全国に15基を配備しており、リアルタイムでデータが公開されていました。各種マスコミで報じられたとおり、釜石沖のGPS波浪計が観測した津波高さのリアルタイムデータは6.7mを示し、気象庁はこのデータを含む複数のデータを根拠に津波警報を引き上げました。残念なことに、この第1波の観測データを発信した後、被災地域の大規模な停電によって、通信網は寸断され、それ以降のリアルタイムデータが発信されなくなってしまいました。ただし、観測データそのものは高台に設置された基準局のバックアップ電源の下、完全な津波波形が記録保存され、その後の種々の解析に活用されています。
東日本大震災時に課題となった①GPS津波計のさらなる沖合展開技術の確立、及び②被災地域の通信網の寸断に対する対策、については、これまでの研究によって克服することができました。そこで、本研究においては
GNSS(GPSを含む各種衛星測位システムの総称)ブイを用いた遠洋での高精度リアルタイムGNSS津波計の実証実験を行うと共に、新たにGNSS—音響システムを用いた海底地殻変動計測実験を実施し、これまで船舶による繰り返し観測となっていた海底地殻変動観測から、連続的な海底地殻変動計測への新たな展開を切り開くことを目的とします。後者によって、日本列島の海溝沿いに発生するプレート間巨大地震の研究に関して重要なプレート間固着及びスローイベント等の実態の解明に資することができると期待されます。さらに、GNSSブイを大気遅延推定や電離層擾乱の研究にも資する総合的な防災技術として展開するための基礎資料を得ることも目的としています。
実証実験(図1)では、高知県足摺岬沖に設置されている浮漁礁の黒潮牧場第18号ブイを高知県から借り受け、GNSSブイとして機能させる機器を搭載し、上記の試験研究で必要とする海洋観測データを取得します。GPS津波計・波浪計及び海底地殻変動観測データは、通信衛星を介して高知県の山間部に位置する仁淀川町に送り、インターネットで全世界にリアルタイム公開する予定です。このデータ公開システムは、平成28年11月を目途に開発を進めます。また、GNSSブイ周辺海域における衛星通信システムや海底地殻変動観測に必要な基礎データの収集に弓削丸の活用を考えています。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(S)16H06310「海洋GNSSブイを用いた津波観測の高機能化と海底地殻変動連続観測への挑戦」でサポートされています。また、衛星通信技術確立については宇宙航空研究開発機構(JAXA)、商用衛星通信システムの利用ではソフトバンク株式会社(SoftBank)、GPS津波計システムについては特許権者である日立造船株式会社(日立造船)の協力を得ることとしています。