独立行政法人 情報通信研究機構
2015年1月29日
研究概要
原子・分子スケールの精度が求められるナノメートルサイズ構造体や電池やデバイスの性能を左右する電極材料表面のように、僅かな大気曝露によって基本物性が大きく変化してしまう試料を超高真空環境下で取り扱う必要性が高まってきています。今回、NICTは乾電池による自立駆動が可能な小型の超高真空ポンプを装備した可搬型軽量真空装置を佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターと共同開発しました。
背景
放射光施設など大型共用施設でユーザーが分析や加工を行う際、多くの場合は試料を大気中で調整して分析装置にセットし測定を行いますが、触媒や電極など反応性の高い表面を有する試料はその測定前の調整過程で大気中の酸素、二酸化炭素、水蒸気などで汚染され物性が大きく変化してしまいます。そこで、九州シンクロトロン光研究センターでは試料をグローブボックスなどから大気に曝すことなく分析装置へ移送するための高真空試料搬送導入装置を開発、運用してきましたが、材料やナノ加工技術のより高性能で安全な研究開発には、大気等による汚染をより低く抑えた状態での信頼性の高い分析が必要となって来ています(図1)。
開発技術
今回、九州シンクロトロン光研究センターで開発、運用されてきた試料搬送導入装置と、NICTが開発してきた電池駆動可能な小型の超高真空イオンポンプ(図2)を組み合わせて、搬送容器内を常時超高真空排気できる「可搬型超高真空試料搬送導入装置」を開発しました(図3)。この搬送容器内に、電池材料として使用されることの多いコバルト(Co)金属を超高真空下清浄化した後、そのまま収納してその表面状態の変化を光電子スペクトルにより評価しました。図4はX線光電子分光法によるコバルト(Co)表面の2p光電子スペクトル測定結果です。搬送導入装置内で保管されたスペクトル(c)の形状は清浄化直後のスペクトル(b)の形状と良く似ています。このことから、搬送導入装置内で保管することでCo金属表面の酸化が効果的に抑制されていることがわかります。スペクトル(c)はスペクトル(b)に比べコバルト由来のピーク強度は弱くなっており、ピークのエネルギー位置が高エネルギー側にシフトしております。このことはCo金属に酸素等が吸着したことを示しており、Co原子から放出された光電子のスペクトルのピーク面積とCo金属に吸着したO原子から放出された光電子のスペクトルのピーク面積の比較から、真空中で清浄化したCo金属表面の酸化は大気中に放置した場合の1/4程度に抑制されていることがわかりました。
今回開発した可搬型超高真空試料搬送導入装置を用いれば、反応性の高いデリケートな試料もその基本物性を損なうことなく遠距離にある放射光施設に搬送し分析することが可能となります。
本件に関する問い合わせ先
未来ICT研究所
ナノICT研究室
ナノICT研究室
田中秀吉
Tel:078-969-2147
E-mail:
公益財団法人佐賀県地域産業支援センター
九州シンクロトロン光研究センター
九州シンクロトロン光研究センター
利用企画課
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Fax:0942-83-5196
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