情報通信研究機構(以下 NICT)と東北大学は、地球周回の低軌道に投入する超小型衛星から地上への光通信技術の実証を目指して共同研究を開始しました。2013年度後半に打ち上げ予定の超小型衛星に搭載する光送信機からレーザ光を地上に向けて送信し、光学望遠鏡に取り付けた光受信機で受信に成功すれば、世界初の“超小型衛星・地上間の光通信”となります。
これまで、NICTは、低軌道を周回する超小型衛星と地上間の高速な光通信のための基礎実験を目標に、光通信に関する技術開発を行ってきました。光通信は、電波の代わりに光(レーザ光) を搬送波として用いる通信方式で、一般的に電波よりも高速な通信速度を達成できるという特徴があります。NICTは、衛星と光地上局との光通信実験として、2つの衛星、静止衛星の技術試験衛星VI型「きく6号(ETS-VI)」と、低軌道を周回する光衛星間通信実験衛星 OICETSとの間で光通信に成功しています。
一方、東北大学は、かねてから重量50kg級の超小型衛星の開発に取り組み、2009年1月には第1号衛星であるスプライト観測衛星(SPRITE-SAT)「雷神」を打ち上げ、2011年5月には第2号衛星である「雷神2」のフライトモデルを完成させました。これらの経験を生かして、現在も、地球観測を目的とした超小型衛星の技術開発を展開しています。
今回の共同研究では、東北大学が開発中の超小型衛星 RISESAT (Rapid International Scientific Experiment Satellite)に、NICTが開発した光送信機を搭載することによって、打ち上げまでの期間を短く、低コストで衛星と地上間の光通信技術の実証試験を行うことを目指します。RISESAT は、東北大学が内閣府の最先端研究開発支援プログラムの資金で開発する衛星で、質量50kg程度、縦横高さがそれぞれ約50cmの立方体をしており、設計寿命は約2年間です。大型衛星の打ち上げに相乗りした形で、2013年度後半に高度500~900kmの低軌道へ投入される計画となっています。
地球を周回する衛星と通信を行うには、光学望遠鏡及び光受信機等の地上局の設備が必要です。NICTの本部(東京都小金井市)にはレーザ通信装置(図1)や口径1.5mの光通信用望遠鏡(図2)が、鹿島宇宙技術センター(茨城県鹿嶋市)には口径35cmの光学望遠鏡(図3)があります。今回の共同研究で は、これらの望遠鏡に光受信機を搭載し、RISESAT から届く光信号を受信する予定です。
今回の実験が実現すれば、世界初の超小型衛星・地上局間の光通信となります。
地球周回軌道や太陽系空間を飛行する人工衛星が観測した大量のデータを短時間で効率よく地上局に送るには、従来の電波に代わる高速な通信手段が必要不可欠です。超小型衛星と地上局との光通信技術の開発には、大きな期待が寄せられており、今回の共同研究は今後ますます注目されると考えております。
補足資料
< 衛星の搭載するレーザ通信装置 >
< 光受信機及び同機を搭載予定の光地上局 >
用語 解説
地球周回軌道のうち、地表からの高度が数百~千km 程度と低い軌道のこと。低軌道を周回する衛星を低軌道衛星と呼ぶ。国際宇宙ステーションも、この軌道を周回する。なお、気象衛星や通信衛星などは高度約36,000km の静止軌道を周回し、地上からは見かけ上、静止して見える。
重量が10~100kg の人工衛星。大型の衛星を打ち上げるロケットに相乗りする形で地球周回軌道に投入される。地表に近い低軌道を周回する衛星には空気の抵抗が働き、軌道は徐々に変化していく。
携帯電話やテレビ・ラジオ放送のように電波を搬送波として用いるのではなく、レーザ光を利用した通信方式のこと。一般的に、電波よりもたくさんのデータを一度に送受信可能。インターネット等の地上の設備では光ファイバーによる通信網が広く普及している。
衛星と地上局間の光通信では、光送信機には半導体レーザ光源とコリメーター光学系が含まれ、光受信機には波長にあった受光素子を光学望遠鏡に取り付ける。
宇宙航空研究開発機構が開発した、技術試験衛星VI型「きく6号(ETS-VI)」という静止衛星。1994 年に打ち上げられ、NICT(当時、通信総合研究所)が開発した光通信基礎実験装置が搭載され、NICT の光地上局との光通信実験に成功した。
宇宙航空研究開発機構が開発した、質量約570kg の光衛星間通信実験衛星。2005 年に高度610km に打ち上げられ、約1 万km 離れた衛星同士や、NICT の光地上局との光通信実験に成功した。
関連報道:
「光衛星間通信実験衛星「きらり(OICETS)」と情報通信研究機構光地上局による光通信実験の成功について」
https://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/h18/060407/060407.html
内閣府最先端プロジェクト「日本発の『ほどよし信頼性工学』を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築」(研究代表者・東京大学 中須賀真一 教授)において開発中の50kg 級超小型衛星2 号機。東北大学を拠点として開発を進めている。次世代の発展型超小型人工衛星バスシステムについて研究開発を行うとともに、海外の機関から選定した複数の理学機器を搭載し、超小型衛星による国際理学観測の実証を行うことを目指している。
研究代表者
宇宙通信システム研究室
後藤 忠広
大学院工学研究科・工学部
航空宇宙工学専攻
吉田 和哉