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インジウム・リン(InP)系トランジスタ

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概要

 ミリ波帯域(30300 GHz)からサブミリ波帯域(300 GHz3 THz)の実現に向けて、トランジスタのひとつであるインジウム・リン(InP)系高電子移動度トランジスタ(HEMT: High Electron Mobility Transistor)の研究を進めています。ミリ波・サブミリ波帯域動作には超高速・高周波特性を有するトランジスタの開発は必須であり、InPHEMTはもっとも有効なトランジスタとして注目されています。

 
 HEMTの高速特性を向上させるためには、電子の走行距離(ゲート長)を短縮することと電子の走行速度を増加させる必要があります。InPHEMTは従来のガリウム・ヒ素(GaAs)HEMTに比べて、電子移動度、電子飽和速度および電子濃度が高いなどの特徴があり、更なる高速化が期待できます。超高速・高周波特性を有するInPHEMTの開発には、(1) ゲート長の短縮化、(2) 材料・結晶構造の最適化、(3) デバイス構造の最適化が必要です。

 (1) ゲート長の短縮化

 100 nm以下の微細ゲート電極の作製には通常の紫外線露光技術では不可能で、電子線(EB: Electron Beam)露光技術を駆使し、ゲート長(Lg) 25 nmの微細T型ゲートの作製に成功しています。

T型ゲート作製のための3層レジストと
T型ゲート作製のための3層レジストと
30 nm T型ゲートの断面写真
30 nm T型ゲートの断面写真
(2) 材料・結晶構造の最適化

 InP系HEMTは、InP基板上に分子線結晶成長(MBE)法または有機金属気相成(MOCVD)法によってインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)とインジウム・アルミニウム・ヒ素(InAlAs)による超格子構造を有しています。InP基板上にInGaAsおよびInAlAsを成長するには、それぞれの格子定数をInPの格子定数に揃える必要があり、通常Inモル組成は5253%です。しかし更なる高速化のために、Inモル組成70%InGaAsを電子走行(チャネル)層に用いた歪みチャネル構造を採用しています。


InP系HEMTの断面構造
InP系HEMTの断面構造
(3) デバイス構造の最適化

 HEMTなどのトランジスタは通常ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極を有する3端子素子です。 トランジスタ特性の向上にはゲート長の短縮化だけでなく、複合キャップ層(Multi-layer cap)の導入(2参照)によるソース抵抗およびドレイン抵抗の低抵抗化も重要です。

これらの結果、ゲート長30 nmで電流利得の限界周波数(fT: 遮断周波数) 547 GHz、最大発振周波数(fmax) 400 GHzを達成しています。


30 nmゲート歪チャネル層を有するInP系HEMTの電流-
30 nmゲート歪チャネル層を有するInP系HEMTの
電流
電圧曲線および電流利得の周波数依存性
電圧曲線および電流利得の周波数依存性

 また20033月にはNICT(当時CRL)と富士通研究所および大阪大学との共同研究により、ゲート長25 nmInPHEMTにおいてfT = 562 GHzの世界最高速HEMTの開発に成功しています。

世界最高速fT = 562 GHzの25 nmゲートInP系HEMTの電流利得の周波数依存性
世界最高速fT = 562 GHzの25 nmゲートInP系HEMTの電流利得の周波数依存性
HEMTのfT記録更新グラフ
HEMTのfT記録更新グラフ