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窒化ガリウム(GaN)トランジスタ

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はじめに

 窒化ガリウム(GaN)ヘテロ接合トランジスタは、内部分極効果によりヘテロ界面に形成されるチャネルの電子密度を非常に大きくできることや、バンドギャップが大きいことなどの物性から、高出力および高耐圧なトランジスタとして期待されています。応用のターゲットの一つとして、携帯電話基地局送信用パワーアンプが挙げられ、現在国内外の多くの大学、企業等の研究機関で研究が行われています。しかし、これらの研究対象は周波数10 GHz以下の領域であり、それより高い周波数領域でのGaNトランジスタの研究はほとんど行われていないのが実状です。当グループでは、より高い周波数領域にあたるミリ波帯 (30-300 GHz) 、その中でもV帯(50-75 GHz)以上の超高周波領域で動作するGaNトランジスタの実現を目指して、結晶成長、物性評価、デバイスプロセス、デバイス特性評価にいたるまでの研究開発を一貫しておこなっています。

GaNトランジスタの特徴
・ 高出力
・ 高耐圧
・ 耐環境性大(高温下での使用、耐放射線性大
・ 毒性が無く、環境に優しい(ヒ素フリー)
・ 資源量豊富な材料のみにより構成される

 

GaNトランジスタのミリ波帯での用途、意義
・ 自動車レーダー (60, 76 GHz)
・ 車々間通信
(60, 76 GHz)
・ 高度道路交通システム
ITS (60, 76 GHz)
・ 人工衛星-地上通信
(26-40 GHz)
・ 人工衛星間通信(
>30 GHz)
・ ラストマイル地上無線通信 (70-100 GHz)
・ 新しい周波数資源の開拓

 

RFプラズマMBE装置
RFプラズマMBE装置
X線回折装置
X線回折装置
電子線描画装置
電子線描画装置
ネットワークアナライザー
ネットワークアナライザー
最近の成果 V帯応用へ向けた薄層AlGaN/GaNヘテロ構造FET

 ミリ波帯(30-300 GHz)における高周波、高出力GaNヘテロ構造FET (HFET)の実現のためには更なる高速化が必要であり、その目的のためには100 nm以下へのゲート長短縮が有効であると考えられます。しかしGaN HFETの場合、通常よく用いられるAl組成0.2-0.3、障壁層厚25-40 nmAlGaN障壁層では、100 nm以下へ短ゲート化しても、ゲート電極フリンジ容量のためチャネルにおける実効ゲート長はほとんど短縮されず、高速化が難しいという問題があります。また、この問題を避けるためにAlGaN障壁層を20 nm以下にすると、ヘテロ界面における分極効果が小さくなり、二次元電子ガス濃度も下がってしまい、シート抵抗が増加する問題があります。これら両方の問題を回避するための一つの方法として、AlGaN障壁層のAl組成を大きくしつつ、膜厚を薄くすることが挙げられます。

AlGaN/GaN HFETの高周波化における問題点、解決策

厚いAlGaN障壁層による短チャネル効果
(アスペクト :ゲート長)/障壁層厚<5で顕著

AlGaN
障壁層25-35nmではゲート長
100nm
以下への微細化が無意味

AlGaN
を薄層化

二次元電子ガス濃度の減少、シート抵抗の増加

AlGaN
障壁層のAl組成を増加した上で薄層化が必要

 

 

 我々は、 MOCVD法と比べて200-300程度低温で結晶成長を行うことが可能なRF-MBE法により、通常良く用いられるAl組成(0.2-0.3程度)より大きいAl組成0.4において、クラックフリーで高結晶品質なAlGaN/GaN HFETを成長することに成功しております。その上で、デバイスプロセス条件を最適化することにより、AlGaN障壁層膜厚8 nmという薄い障壁層を有するAlGaN/GaN HFETにおいて、高い相互コンダクタンス(gm > 400 mS/mm)を実現しました。また、出力に大きく関係してくる最大電流密度も0.83 A/mmと十分に大きな値を得ております。RF特性においても、ゲート長1ミクロンのデバイスのものとしては優れた値(fT=13.9GHz,fm ax=26.3GHz)が得られています。今後、ゲート長を100nm以下へサイズダウンすることにより、優れた高周波特性が得られるものと考えて研究を行っております。

I-V特性
I-V特性
RF小信号特性
RF小信号特性
RF、DC諸特性のAlGaN障壁層厚依存性
RF、DC諸特性のAlGaN障壁層厚依存性
InAlN/GaNヘテロ構造FET

 上述のように、GaNヘテロ構造FETのさらなる高速、高出力化のためには、より大きな分極効果を得るために障壁層のAl組成を大きくしつつ、膜厚を薄くすることにより単位長さ当たりのゲート容量を大きくすることが有効であります。しかし、AlNGaNの格子定数の違いから、例えばAl組成約0.5以上のAlGaNGaN上にコヒーレントに結晶成長することは低温成長可能なRF-MBE法においても困難であると考えられます。
 InAlNAl組成0.83GaNと格子整合するため、障壁層に利用すればAl組成0.8-0.9という非常に高いAl組成の障壁層が可能になると考えられます。その結果として、より大きな電子密度がより薄い障壁層厚で可能になりす。
 我々は、高品質なInAlN/GaN HFET構造をRF-MBE法により成長し、本構造としては世界で初めてトランジスタを動作させることに成功しました。現在、結晶成長およびデバイスプロセス条件の最適化を行うことにより、より高い性能を目指して研究を行っております。

 

InAlNGaN HFET構造
InAlNGaN HFET構造
AlGaNGaN HFETの電子密度と障壁層厚の関係
AlGaNGaN HFETの電子密度と障壁層厚の関係
InAlNGaN HFETの電子密度と障壁層厚の関係
InAlNGaN HFETの電子密度と障壁層厚の関係
I-V特性
I-V特性
DCトランスファー特性
DCトランスファー特性