生体の視覚を模倣した電源不要な新しい撮像技術を開発

2023年9月26日

国立大学法人島根大学
国立研究開発法人情報通信研究機構
国立大学法人電気通信大学

ポイント

  • カメラとは異なる,外部電源不要な新しい撮像技術
  • 物体の輪郭や動きなど,特定の要素を抽出して可視化
  • 生体の視覚機能を基にした撮像技術
  • インクジェット技術で製造可能
  • SDGs時代に合致した低環境負荷な撮像技術

成果の概要

島根大学教育学部・大学院自然科学研究科の長谷川裕之准教授,坂本海里さん,正村和也さん,佐野由佳さん,国立研究開発法人情報通信研究機構(NICTエヌアイシーティー)未来ICT研究所の笠井克幸主任研究員,田中秀吉研究マネージャー,大友明上席研究員,電気通信大学大学院情報理工学研究科の岡田佳子教授の研究グループ(各研究メンバーの所属等は研究実施当時のもの)が,生体の「視覚機能」を模倣した撮像技術(視覚センサー)を開発しました。このセンサーでは, 生体由来の材料であり高度好塩菌の細胞膜から抽出して得られる光受容膜タンパク質「バクテリオロドプシン(bR)」を用いているところも特徴です。

背景

島根大学教育学部とNICT未来ICT研究所,電気通信大学大学院情報理工学研究科の3者は,共同研究により,バイオ材料を用いた,視覚センサーなどの視覚情報デバイス(素子)の構築に関する研究開発を行ってきましたが,これまで生体材料でセンサーのようなデバイスを作る場合には大きな問題がありました。生体材料は一般に熱や薬品,乾燥などに弱いため,例えば半導体の製造技術には適合しません。視覚センサーの作製には様々な形状を造り出す必要があるため,生体材料に適した温和な条件で自在にパターニングする技術が必要でした。

今回の成果

研究チームは,まずインクジェット技術によって,温和な条件でbRを自在にパターニングする方法を開発し,問題を解決しました。次に,この手法を用いて,視覚機能を模倣した2種の視覚センサー,「DOGフィルタ」と「Gaborフィルタ(図1)」を作製しました。これらは通常のカメラと異なり,「DOGフィルタ」は物体の輪郭を認識する機能が,「Gaborフィルタ」は物体の動きや方向を認識する機能が備わっており,一般のカメラとは「見える画像」が異なります。
Gaborフィルタでは,試行実験として,「生」の文字を読み取らせたところ(図2),縦の線分のみを認識した画像が得られました。この特定方向の線分のみを抽出する特徴を活かして,生産現場での不良品の検出などへの応用が期待されます。

今後の展望

今回の視覚センサーは外部電源が不要である点も特徴です。省エネルギーな印刷技術で作製でき,培養で生産できる生体材料を利用した点も相まって,持続可能な開発目標(SDGs)にも合致した,低環境負荷なセンサー技術として,自動運転車やドローンのカメラに代わるセンサー技術として今後の発展が期待されています。

今回の成果は,島根大学,NICT未来ICT研究所(神戸市)と電気通信大学(東京都)との共同研究で,米国化学会の論文誌,ACS Applied Materials & Interfaces (Q1論文誌,2022 ジャーナル・インパクトファクター: 9.5)に掲載されました。

本研究は日本学術振興会科学研究費補助金 26390051, 17K05037, 17H05170, 17K06037, 18H03258 の助成を受けたものです。

図1. 視覚センサーの1つ,Gaborフィルタの模式図(a)と実際の投影図(b)。

図2. 開発した撮像技術を用いたパターン認識実験。 (a) オリジナルの文字画像。 (b) 文字画像を水平に4つに分割。 (c) 文字画像の垂直に4つに分割。 (d) 文字投影の概略図: 視覚センサー上に分割したものをそれぞれ水平方向に動かし投影。 (e) センサーが見た画像(垂直に分割したもの)。縦の線分のみが見える。 (f) センサーが見た画像(水平に分割したもの。元の向きに復元)。 (g) (e)と(f)を組み合わせると元の文字に近い画像が得られる。

各機関の役割分担

  • 島根大学: bRのパターニングと素子作製,光電流応答特性の測定と可視化
  • 情報通信研究機構: bRの精製,bRパターンの設計,光電流応答特性の測定
  • 電気通信大学: 高度好塩菌の培養によるbRの作製と精製

掲載情報

論文名: Biomaterial-based Biomimetic Visual Sensors: Inkjet Patterning of Bacteriorhodopsin
著者: Hiroyuki Hasegawa(責任著者), Kairi Sakamoto, Kazuya Shomura, Yuka Sano, Katsuyuki Kasai, Shukichi Tanaka, Yoshiko Okada-Shudo, & Akira Otomo
論文誌: ACS Applied Materials & Interfaces(Q1論文誌,Journal Impact Factor 2022: 9.5)

研究について

島根大学 教育学部 理科教育専攻 化学研究室

准教授 長谷川 裕之


国立研究開発法人情報通信研究機構
未来ICT研究所
ナノ機能集積ICT研究室

室長 大友 明


電気通信大学 
名誉教授/特命教授 岡田 佳子

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