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(Front-End IC: FE-IC)は1素子でアンテナ4素子分を制御し、右旋円偏波・左旋円偏波の切り替え及びビーム走査を行います。アンテナ素子からFE-ICまでを含めた基板厚が10 mm以下となるように多層基板技術、高密度実装技術を用いて薄型化を実現します。本研究開発は総務省の電波資源拡大のための研究開発として2017年から4年間実施しており、送受信ともに基礎検討として16素子アレー、サブアレーとして64素子アレーの試作評価、送信側は最終年度に飛行機を用いた512素子アレーの評価実験を行っています。■飛行機を用いた評価実験図3に示すように小型単発航空機の胴体側に試作した送信側512素子アレーアンテナを搭載し、地上に設置した受信装置の上空1,000 mの高さを飛行させ評価実験を行います。放射パターン性能、追尾性能、変調波通信性能について評価しましたが、ここでは変調波通信性能の結果について紹介します。衛星通信用モデムを用いて変調方式を4位相偏移変調(Quadrature Phase Shift Keying: QPSK)、8PSK、16振幅位相偏移変調(16 Amplitude Phase Shit Keying: 16APSK)と変化させ、通信性能を評価します。情報レートを50 Mbpsに設定しQPSK、 8PSK、16APSKのシンボルレートと占有帯域幅を事前に電波暗室で測定すると、周波数利用効率はQPSKと比較して8PSKで約33%、16APSKで約50%の改善が確認できました。飛行試験において変調方式を変えても通信性能に差がないことを確認できれば、本アンテナにより周波数利用効率が改善されるといえます。飛行試験ではアンテナが常に受信装置を追尾するようにビームを制御し、受信装置上空を直線飛行した際のモデムにおける1ビット当たりのエネルギー対雑音密度比(Energy per bit to Noise density ratio: Es/N0)の時間変化とモデムの通信状態を測定します。図4は測定時間に対するEs/N0の結果を示しており、40~50 sあたりで受信装置の真上を飛行機が通過し、図中の赤線で示すモデムが通信可能状態である時間は受信装置の真上を通過する前後25 s程度となります。通信可能状態に必要なEs/N0の値はQPSKで3.0 dB、8PSKで6.6 dB、16APSKで10.4 dBと差がありますが、通信可能時間はそれぞれ56.6 s、56.9 s、51.8 sで大差ありません。8PSKとQPSKは同等の性能が得られており、本アンテナによって周波数利用効率が約33%改善しているといえます。また、16APSKの結果から8PSK以上の多値変調にも対応可能であり、周波数資源の有効利用に貢献するアンテナであると考えています。■今後の展望AESAは機械的駆動が不要かつ平面アンテナとなるため、航空機のみならずNTNや地上における様々なプラットフォームに活用でき、Beyond 5G時代において重要な技術であると考えています。今後はアンテナの低消費電力化及び排熱の高効率化を図り、各種プラットフォームでAESAが利用できるように開発を進める予定です。図1 航空機搭載用AESAの概要図2 アレーアンテナ素子配置及び断面構造図3 送信側512素子アレーの飛行試験イメージ図4 変調波通信測定結果7NICT NEWS 2023 No.2

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