128本積み上げて構成されたものです。アンテナ下部の 24 本は送受信共用で 24台の送信器と受信器、残りの 104本には 104台の受信器が接続されています。方位角方向のビーム幅は導波管の約 2 m の長さで約1.2度になります。送信時は下の24本で仰角方向のファンビームを高速に電子走査し、受信時は 128本全体でデジタルビームフォーミングにより方位角方向と同じ約 1.2 度の鋭いビームを同時に複数形成します。こうして仰角方向にアンテナを動かさず、ほぼ一瞬で100仰角以上の高密度な鉛直断面の観測を実現しています。2014年には、これと同型のPAWRが未来ICT研究所(神戸)と沖縄電磁波技術センター(恩納村)に設置されました。ただし、このPAWRは単偏波(水平偏波のみ)であり、近年主流になってきているマルチパラメータ(MP)の機能を持っていません。雨粒は大きくなるほど空気抵抗を受けて水平方向に扁平してくるため、水平偏波と垂直偏波での散乱・伝搬特性が異なります。この特徴を用いることでより高精度の降水観測が可能になるため、従来型(パラボラ)気象レーダーでも偏波観測機能を持つものが増えています(国交省X-MPなど)。PAWRは従来型(パラボラ)気象レーダーに比べ、観測速度と空間観測密度についてはそれぞれ10倍程度と圧倒的な利点を持っていますが、この偏波観測機能が不足していました。■マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)そこで、PAWRに偏波観測機能を追加したマルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)の開発を進めました。2012年から2014年に実施された電波利用料「周波数の有効利用を可能とする協調制御型レーダーシステムの研究開発」の中で偏波共用のパッチアンテナが開発されました。これを用いて2014年から2018年に実施されたSIP(内閣府戦略的イノベーション創造プログラム)第1期「レジリエントな防災・減災機能の強化」(豪雨・竜巻予測技術の研究開発)の中でMP-PAWRが開発され、2018年から埼玉大学(さいたま市)で稼働しています。MP-PAWRのアンテナの写真を図3に示します。送受は別々のアンテナで行い、写真上側の8角形が受信アンテナ、下側の長方形が送信アンテナです。偏波共用パッチアンテナが受信用に 5,760個、送信用に960 個二次元に敷き詰められています。偏波共用のためアンテナ方式は大きく変わりましたが、ビーム形成の方式はPAWRを踏襲し、フェーズドアレイとデジタルビームフォーミングの併用で100仰角以上の高密度観測と高速観測を実現しています。■今後の展望MP-PAWRは、これからのX帯気象レーダーの主流になると期待されています。現在は埼玉大学に設置された1台ですが、2021年度の補正予算により、大阪大学と未来ICT研究所(神戸)のPAWRが2022年度中にMP化されます。図4は、2022年12月12日に行われた大阪大学吹田キャンパスでのMP-PAWRアンテナへの更新作業の風景です。新しいMP-PAWRのアンテナが設置され、その上に新しいレドームが設置されました。高機能化されることで、MP-PAWRは従来型レーダーよりも時間分解能で約10倍、空間分解能で約10倍、合わせて約100倍の量のデータを生み出します。このような大容量のリモートセンシングデータの利活用を進めるために、2022年度から3年間の総務省委託研究「リモートセンシング技術のユーザー最適型データ提供に関する要素技術の研究開発」が開始されています。AIを用いたデータ圧縮・復元を利用し、ユーザーに最適な形でデータ提供するプラットフォームの構築を行います。2023年度からは関西で2台(吹田・神戸)のMP-PAWRが動き出します。2025年に開催される大阪万博の会場は、ちょうどこの2台のレーダーの観測エリアが重なるところにあり、大阪万博での MP-PAWRデータの利活用についても検討を開始しています。今後も更にMP-PAWRの展開・データ利活用推進を目指して研究開発を続けてまいります。図2 フェーズドアレイ気象レーダー(PAWR)のアンテナ図3 マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)のアンテナ図4 MP-PAWRアンテナ設置の様子(2022年12月12日)5NICT NEWS 2023 No.2
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