マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)高速・高密度・偏波観測の実現FEATUREアンテナを活用した研究開発Antennas Lead Innovave Researches in NICT川村 誠治(かわむら せいじ)電磁波研究所電磁波伝搬研究センターリモートセンシング研究室 室長2003年大学院修了後、日本学術振興会特別研究員を経て2006年NICT 入所。レーダーリモートセンシングの研究に従事。博士(情報学)。ラボラアンテナを用いる従来型気象レーダーに対し、単偏波フェーズドアレイ気象レーダーは高速・高密度観測の実現のため128本の導波管スロットアンテナを採用しています。さらに世界の最先端を走る気象レーダーの一つ、マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダーでは偏波観測のために多数の偏波共用パッチアンテナを採用しています。アンテナの視点から、これらのレーダー開発について紹介します。■従来型レーダーとの違い近年、ゲリラ豪雨や線状降水帯などの豪雨災害のニュースを耳にすることが増えています。これらの豪雨災害は積乱雲が急激に発達して被害をもたらすのが特徴で、防災・減災のためには少しでも早く積乱雲の生成・発達を捉えることが重要です。この視点から、NICTでは従来の気象レーダーよりも高速・高密度観測が可能なフェーズドアレイ気象レーダーの研究開発を進めています。従来型の気象レーダーとフェーズドアレイ気象レーダーの比較を図1に示します。従来型レーダーはパラボラアンテナを用いており、細いペンシルビームを方位角方向に一回転させ、少し仰角を上げてまた一回転というようにして、5分程度の時間をかけて十数仰角の空間観測を行います。これに対してフェーズドアレイ気象レーダーは、電子的にビームを振るフェーズドアレイの技術と、受信後に位相合成で同時に複数のビーム形成をするデジタルビームフォーミングの技術によって、仰角方向にアンテナを動かすことなく、ほぼ一瞬で100仰角以上の高密度な鉛直断面の観測が可能です。さらに方位角方向に30秒で一回転するだけで高速に三次元観測が可能です。■単偏波フェーズドアレイ気象レーダー(PAWR)最初のフェーズドアレイ気象レーダー(PAWR)は、2012年に大阪大学(吹田キャンパス)の屋上で稼働を開始しました。そのアンテナの写真を図2に示します。約2 m四方の四角いアンテナは、横長の導波管スロットアンテナを縦方向にパ花土 弘(はなど ひろし)<左>電磁波研究所電磁波伝搬研究センターリモートセンシング研究室 研究マネージャー大学院修士課程修了後、1989年、郵政省通信総合研究所(現NICT)に入所。マイクロ波リモートセンシング、特に降雨レーダーの研究に従事。佐藤 晋介 (さとう しんすけ)<右>電磁波研究所電磁波伝搬研究センターリモートセンシング研究室 総括研究員大学院博士課程修了後、1995年NICT入所。衛星搭載降雨レーダー、バイスタティック偏波レーダーなどの研究開発を経て、現在はフェーズドアレイ気象レーダーの研究開発に従事。博士(理学)。図1 従来型レーダーとフェーズドアレイ気象レーダーの比較NICT NEWS 2023 No.24
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