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MHzの電波を観測しました。太陽が放射する電波の強度を観測することで太陽活動の変化を知ろうというものです。現在NICTが行っている宇宙天気予報の先駆けとも言えるものです。1967年には、より大きなパラボラアンテナに置き換わり、本格的な観測が始まりました。――NICTが世界で初めてオリンピックの衛星中継も行ったのですね。門脇 1964年の東京オリンピックを世界に中継したのは、鹿島支所(現在の茨城県鹿嶋市、現在の鹿島宇宙技術センター)の開所時に設置された受信用の口径30メートルと、オリンピックのために急きょ仮設された送信用の口径10メートルの、2つのパラボラアンテナです。静止軌道上のアメリカの通信衛星シンコム3号によって伝送されました。これを契機として本格的な衛星通信時代の幕が開けたといえます。 また、今はなくなってしまいましたが、1975年に通信衛星CS・放送衛星BSの実験用に口径13メートルのパラボラアンテナを2基並べた施設が作られました。日本初の実験用中容量静止通信衛星「さくら」(1977年打上げ)、実験用放送衛星「ゆり」(1978年打上げ)の運用開始とともに、多くの実験が行われ、現在私たちが視聴しているBS・CS放送の基礎を築いたと言えます。 CS用のパラボラアンテナでは、Kaバンドといわれる30 GHz帯と20 GHz帯という高い周波数が使われました。現在、Kaバンドは衛星通信の中心的な周波数となっていますが、50年近く前としてはかなり先進的な技術だったといえます。 また観測用アンテナとしては、鹿島にVLBI(超長基線電波干渉法)のアンテナが置かれていました。1968年に、口径26メートルのアンテナ(当初は送受信機能を持つ衛星通信実験用のアンテナとして)が設置され、1983年に最初の日米VLBI実験が行われました。その後、1988年には更に大きな口径34メートルの巨大なパラボラアンテナが設置されました。VLBIは星からの電波を地球上の遠く離れた地点で同時に受信して、電波の位相差から2地点の距離を精密に測定する技術です。VLBIはNICTが日本で初めて導入したもので、国立天文台・国土地理院・JAXA宇宙科学研究所・国立極地研究所などと連携し、電波天文学・測地学・深宇宙探査機のナビゲーション技術などに大きく貢献しました。 通信の方では、次第に高い周波数が使われるようになり、1980年代から光衛星通信の研究を始めています。NICT本部(東京・小金井)の敷地の中には、1988年に設置した口径1.5メートルの光衛星通信用のアンテナが今もあります。このアンテナで、技術試験衛星「きく6号(ETS-6)」(1994年打ち上げ)との間で光衛星通信の実験を行いました。■現在のアンテナ研究の状況――現在開発中のアンテナ関連の技術にはどのようなものがありますか。門脇 一つには、航空機からのKa帯通信衛星経由で高速インターネット接続を実現する航空機搭載用通信アンテナの開発があります。これは平面型で電子的に走査を行うアレイアンテナです。機械的な可動部分がなく、電子的にビームの方向を変えて衛星を追尾できますので、振動や荷重といった負荷がかかる航空機にはうってつけです。また、通信性能を向上させるためにアンテナ開口部の面積を大きくしても、でっぱることがありません。 このアンテナはすでにプロトタイプが完成していて、2023年に打上げられるアンテナから見えてくるNICTの無線通信技術の歴史と未来●東京オリンピックを世界に中継した、口径10メートルと30メートルのパラボラアンテナ●ブロードサイドアレイアンテナ ●通信衛星CS・放送衛星BSの実験に使用した口径13メートルの2基のパラボラアンテナwireless communication technologyHISTORY AND FUTUREFEATUREアンテナを活用した研究開発Antennas Lead Innovave Researches in NICTNICT NEWS 2023 No.22

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