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アンテナを活用した研究開発Antennas Lead Innovave Researches in NICT19世紀末にイタリアのマルコーニが無線通信技術を発明して100年余り。その間、無線通信技術は素晴らしい進歩を遂げた。1964年の東京オリンピックでは世界に先駆けて宇宙中継が行われ、20世紀後半には高速大容量の光通信も可能になった。21世紀に入ると更なる高速化を目指してテラヘルツ帯の電波の研究が進んだ。光衛星通信の実験が行われ、月や火星との高速通信も視野に入ってきた。これらのすべての通信において欠かせないのがアンテナである。今回は、NICTでアンテナを使った研究に邁まい進しんしてきた門脇直人理事に話を聞いた。――私たちの身近なところにはどんなアンテナがあるのでしょうか。門脇 最も身近なところにあるアンテナといえば、スマートフォンでしょう。あの小さな筐きょうたい体の中に、電波を安定して送受信するために複数のアンテナが入っています。またGPSやBluetoothなどのアンテナも入っていますから、1台のスマートフォンには7~十数個のアンテナが入っていると考えていいでしょう。 また最新の5G対応機の一部は、ミリ波の28 GHz帯のアンテナを内蔵しています。このような高い周波数の電波を送受信するアンテナは、金属板の間に小さなスリットが入ったものやマイクロストリップアンテナと呼ばれる平面アンテナなどです。このような高い周波数に対応したアンテナの開発を行うなど、NICTではいつの時代も最先端の技術にチャレンジしてきました。■NICTのアンテナを使った研究開発の歴史――NICTが最初にアンテナにかかわったのはいつ頃でしょうか。門脇 マルコーニ が世界で初めて無線通信の実験に成功したのは1895年ですが、その翌年には早くも逓ていしんしょう信省電気試験所(1891年創設)が無線電信の実験を始めています。逓信省は現在の総務省ですから、ルーツをたどればNICTのアンテナを使った研究開発の歴史はそこから始まったともいえます。 その後、本格的な無線通信の研究が始まり、1917年には1つのアンテナで2つの周波数を共振させることができるアンテナを開発し、送信と受信で異なる周波数を使い分けて同時に送受信できるようにしました。当時としては画期的なことです。――アンテナといってもいろんな種類がありますね。門脇 小さなものは先ほどのスマートフォンの中のアンテナですが、最も大きなものはパラボラアンテナです。電波の弱い衛星と通信したり、太陽や宇宙からやってくる微弱な電波を捉えるために用いられます。アンテナは無線通信だけでなく、観測にも使われます。 NICTの前身である郵政省電波研究所の平磯電波観測所(現在の茨城県ひたちなか市)の太陽電波観測施設に、1952年ブロードサイドアレイアンテナが設置されました。これは平面の反射板にダイポール(棒状の素子)を垂直にとりつけたもので、太陽からやってくる200 アンテナから見えてくるNICTの無線通信技術の歴史と未来門脇 直人(かどわき なおと)NICT 理事 1986年郵政省電波研究所(現 NICT)入所。そ の後、豪州 AUSSAT 社客員研究員、ATR 適応コ ミュニケーション研究所、NICT ワイヤレスネッ トワーク研究所長、執行役等を経て現職。 博士(情報科学)。1NICT NEWS 2023 No.2

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