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森川 真樹(もりかわ まさき)電磁波研究所電磁波標準研究センター時空標準研究室 日本標準時グループ研究技術員大学院修了後、2021年にNICT入所。標準電波による高精度周波数提供、日本標準時の維持運用に従事。第一級陸上無線技術士。ICTは、標準周波数の決定及び日本標準時の発生・維持・供給を行っています。また、標準周波数に時刻情報を重畳した標準電波を全国に届けるため、東西2局の送信所を24時間体制で運用しています。身近な例として、電波時計は標準電波を頼りに正確な時刻を表示します。本稿では、標準電波を発射する長波標準電波送信所の維持・運用業務について紹介します。■長波帯標準電波とは   長波帯標準電波(呼出符号 JJY)は、NICTが決定した周波数標準を、国家標準として全国で利用できるように発射された電波のことです。現在、標準電波は、40 kHzと60 kHzの2周波数で送信しています。これら周波数搬送波に振幅変調を行い、日本標準時の時刻情報を重ちょうじょう畳しているため、電波時計はこれを受信し、時刻合わせを自動で行います。ご家庭でも、電波時計を通じて標準電波を利用されたことがあるのではないでしょうか。1999年には、福島県に「おおたかどや山標準電波送信所(40 kHz)」が開設(図1)、2001年には、受信エリアの拡大と切れ目なく供給を行うことを目的に、福岡県・佐賀県境に「はがね山標準電波送信所(60 kHz)」が開設されました(図2)。以降、20年以上にわたり長波帯標準電波を皆様にお届けしています。■送信所設備の概要   各送信所内には原器室、時刻信号管理室、整合器室、送信機室、空中線(アンテナ)などがあります。温度湿度管理と電磁界シールドが徹底された原器室には、セシウム原子時計が3台以上設置されています。時刻信号管理室では、測位衛星や衛星通信を介した方法により、原子時計の出力と日本標準時と誤差を100ナノ秒以内に収めるよう、周波数の微調整を行い、これをもとに送信する信号の発生を行っています。送信機室内には、定格50 kWの送信機が2機冗長系として設置されており、安定した送信を実現しています。送信機の電力増幅はMOSFETよる48枚のアンプモジュールで構成されています。雷害などによる故障時には、故障したモジュール基板のみ交換することで、迅速に修復を行うことが可能です。各送信所の設備が入る局舎とアンテナは、山頂付近に設置されており、おおたかどや山(標高790 m)には、高さ250 mの無指向性の傘型アンテナ、はがね山(標高900 m)は高さ200 mのアンテナがそびえ立ちます(図3)。そのため、落雷や積雪の被害を受け、その対応に追われることが多々あります。実際に送信所に行ってみると、地上のアンテナ鉄塔の巨大さに目を奪われますが、それがすべてではありません。アンテナの足元には、360本もの銅線が、半径150 mにわたって角度1°間隔で大地に埋め込まれています。この銅線(ラジアルアース)によって、電波の放射効率が向上します。■送信所の維持管理   私たちは、次の3つの側面から送信所の維持管理を行っています。1つは、前述の原器や周波数の微調整といった日本標準時システムの1拠点として。もう1つは、後述する航空障害灯の更新や災害復旧といった送信所建屋とそれに付帯する施設として。さらに、送信所は、電波法上の標準周波数局という無線局としてN長波帯標準電波送信所の運用FEATUREアンテナを活用した研究開発Antennas Lead Innovave Researches in NICT図1 おおたかどや山標準電波送信所 全景図2 はがね山標準電波送信所 全景NICT NEWS 2023 No.210

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