そのためのミリ波アンテナもいくつか研究開発され、特に広帯域平面アンテナは新しい構造が提案され、優れたアンテナ特性が得られています。ミリ波帯・テラヘルツ波帯では、アンテナと半導体デバイスや回路モジュールとの接続や一体化が大変重要なポイントとなり、そこに平面アンテナが挙げられています。平面アンテナには、軽量・小型が可能な上、高周波の発信源と受信器を構成する半導体デバイスとの親和性がよく、接続や一体化がしやすい特徴も併せ持ちます。しかし、平面アンテナには、動作帯域が狭く、アンテナアレーを組む場合は、給電回路のロスが大きいなどの欠点が挙げられています。我々は、これらの欠点を解決すべく新しい平面アンテナ構造を提案し、広帯域化と一定の高効率化・高利得化に成功しました。図2は、60 GHz帯用に開発したミリ波広帯域平面アンテナの一例です(図2a)。このアンテナは面積1センチ角未満(厚さ0.5ミリ程度)、14 GHz以上の動作帯域、9 dBiの最大利得、一つのアンテナで現在標準化されている世界各国の60 GHz帯免許不要バンドをすべてカバーできるといった優れた特性を持っています(図2b)。同60 GHz帯の広帯域ビームフォーミングアンテナも開発されました。図3はこのビームフォーミングアンテナを使った高速無線映像伝送の実験概念図です。この実験では、アンテナのビームフォーミング機能を用いて、障害物のある見通し外環境においても3.5 Gbpsの通信速度が達成できました。■今後の展望アンテナの研究開発は、Beyond 5G / 6Gに象徴されるようなミリ波・テラヘルツ波への高周波数化や、ビームフォーミング機能が要求されるような多機能化に伴い、すでにアンテナ単体の研究をすればよい時代が終わりました。これからの研究は、システムに相応しい新しいアンテナ構造の発見や、動作帯域・効率・利得のようなアンテナ特性への追求はもちろんのこと、半導体デバイス・回路との集積化・一体化、さらにシステムの機能をも取り込み、よりスマートなアンテナの創出になるでしょう。B5G / 6Gの高周波数化への対応としては、我々はすでに300 GHz帯のテラヘルツ波広帯域平面アンテナの開発に成功しており、面積数ミリ角のアレーアンテナが70 GHz以上の動作帯域、10 dBiの最大利得が実証ずみ、実際のテラヘルツ波無線通信システムに十分に実用できるアンテナと思われます。それに加えて、次世代の無線通信システムは電波のみならず、電波と光波(つまり、無線と有線)の融合したシステムと予想されており、そこには、我々が二十数年前に世界に先駆けて提案し、研究していた光デバイスとアンテナを集積した「フォトニックアンテナ」も再び脚光を浴びるのではないかと期待しています。その後更に多いバンドのアンテナも開発されました。また、研究成果の産業界への普及の一環として、高周波回路部品研究の成果である「マルチバンド小型アンテナ」の技術移転を日新パーツ株式会社(当時)に行い、最新の多機能携帯電話機(当時)に採用され、数百万個の出荷があったとの報告でした。一方、シングルバンドからマルチバンドアンテナへの技術課題は、いくつかあります。例えば、一体化された構造で、いかに複数バンドを同時に動作させ、それぞれのバンドにおいてインピーダンス整合を実現し、かつ放射効率をあまり損なわないように、また、マルチバンド間の互いの影響をできるだけ低くするように、整合部分をハイインピーダンス化するなど、構造上の工夫を施してあります。また、小型アンテナが概してそうであるように、アンテナの働きはアンテナ自身の部分だけではなく、その周辺環境によってもその放射特性が変わります。したがって、アンテナの開発はアンテナ構造部分の開発だけではないのです。携帯電話の場合、実際に筐きょう体たいに組み込んでから、放射特性を評価し、中心周波数やインピーダンス整合の調整が必要です。これも大変重要なポイントで、これらの課題は、今も変わっていません。■ミリ波広帯域平面アンテナ(60 GHz帯)とその応用NICTは、周波数資源開拓の一環として60 GHz帯を例にミリ波無線通信システムの研究開発を長年担ってきました。(a) 平面アンテナ構造 図2 60 GHz帯広帯域平面アンテナ(b) アンテナの反射特性と動作帯域図3 60 GHz帯広帯域ビームフォーミングアンテナを使った見通し外高速無線映像伝送システム実験9NICT NEWS 2023 No.2
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