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李 可人(り かじん)ネットワーク研究所ワイヤレスネットワーク研究センター ワイヤレスシステム研究室/Beyond5G研究開発推進ユニットテラヘルツ研究センターテラヘルツ連携研究室主任研究員大学院修了後、電気通信大学の助手・講師・准教授を経て、1997年通信総合研究所(現NICT)に入所。光通信デバイス・マイクロ波回路・アンテナ・無線通信システムの研究に従事。工学博士。ンテナは、電波(または電磁波)を有効に発射、または受信するのに必要不可欠なデバイスです。電波は、1888年にドイツの物理学者であるヘルツによって発見・実証され、アンテナはその当時の実験にすでに使われていました。電波の応用は、テレビや電波天文などいろいろとありますが、我々の生活に最も密着していて、かつ広く利用されているのは携帯電話のような無線通信システムです。無線システムにおけるアンテナの役割は、電波の発射と受信にあります。発射は電波を送り出す出口で、受信は、空間を伝でん播ぱして届く電波を信号として受け取る入口です。言うまでもなく、この出入口の良さ(効率の良さ)は無線通信システムの通信品質を直接に左右します。電波の周波数(または波長)や無線通信システムの種類に応じて、種々のアンテナが開発されています。これは生物に例えて言うならば、小さい蟻用の出入口と我々人間用の出入口などのように多種多様です。アンテナ研究者の仕事は目標の電波とシステムに対していかに効率よくかつ電波信号が歪ゆがまずに送受信できるアンテナを開発することにあり、無線通信システムの研究は、その周波数とシステムにいかにふさわしいアンテナを選ぶかにあります。アンテナの種類が千差万別の中、今回は携帯電話用小型マルチバンドアンテナと、ミリ波広帯域平面アンテナ及びその応用について紹介します。■携帯電話用小型マルチバンドアンテナ携帯電話用アンテナは、今はほとんどが内蔵型で直接目に触れることは余りありませんが、最も我々の生活に密着したアンテナの一つでしょう。携帯の非常に限られた内部スペースに搭載する以上、アンテナの小型化は必須事項です。一方、現在の携帯電話は複数の通信バンド(周波数帯)に対応している上、GPSやBluetooth/Wi-Fiなど、多くの異なる周波数の電波をも取り扱えるように設計されています。最近の5G対応の携帯電話では、さらに28 GHz帯のようなミリ波帯の電波も利用可能となっています。そのため、それらの複数電波に対応したアンテナが必要ですが、さすがに携帯電話にたくさんのアンテナを詰め込むわけにはいきません。そこで一つのアンテナで複数の周波数で動作するマルチバンドアンテナが誕生したのです。図1は、NICTが2004年頃に開発した2バンド・3バンドアンテナの写真です。3バンドのアンテナは、当時の800-900 MHz、GPS、2 GHz帯のサービスを1つのアンテナで受けることが可能です。このマルチバンドアンテナには、理想的なモノポールアンテナの特性を維持しつつ、小スペース化を実現させ、複数の周波数帯の調整を容易に行える特徴を持っており、NICTの特許としても成立しています。ア電波の出入口:小型・平面アンテナの研究と無線通信システムへの応用FEATUREアンテナを活用した研究開発Antennas Lead Innovave Researches in NICT図1  携帯電話用内蔵マルチバンドアンテナ(2バンド・3バンドアンテナ) (サンプルは当時の技術移転先企業からの提供) NICT NEWS 2023 No.28

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