トドップラーライダーと二酸化炭素差分吸収ライダーの基盤技術を生かして、コヒーレント方式の水蒸気差分吸収ライダーの開発を開始しました。水蒸気差分吸収ライダーは、主に波長2 µm帯の単一波長の連続波を発振させる種たねレーザ、種レーザの波長を観測に適した波長に制御する波長制御装置、波長制御した種レーザを光注入同期光源とする高出力パルスレーザから構成されます。水蒸気量を高精度に計測するためには、水蒸気に吸収されやすい波長(吸収波長)と吸収されにくい波長(非吸収波長)のそれぞれを、水蒸気観測に最適な波長として選択することが重要です。また、その波長を高精度かつ長時間に渡って安定化させる波長制御技術が必要になります。水蒸気の測定誤差が湿度±10%以下になるようにするためには、レーザ光の波長を1 pm、つまり1兆分の1 mの範囲で制御する必要があります。私たちは、2020年にこれまでの技術では制御することができなかった波長範囲も制御可能な画期的な波長制御技術を開発し、レーザ光の波長を長期間にわたって0.5 pmの範囲で制御できることを示しました。図4は上空の水蒸気量を計測することができるラジオゾンデと差分吸収ライダーから求めた水蒸気量の比較結果です。この図から相関係数で0.9以上と、非常に良い一致を示していることが分かります。■社会実装に向けて今後、差分吸収ライダーを社会実装するためには、誰にでも使える差分吸収ライダーを開発する必要があります。そのためには、図3に示す差分吸収ライダーの各構成要素の安定化と低価格化が必須になります。私たちは2020年から種レーザとパルスレーザの試作を開始しました。シンプルな設計でありながら、高精度に波長を制御できる種レーザを試作し、動作試験を実施中です(図3(a))。パルスレーザは、入手性の高いツリウムファイバーレーザを励起光源とした常温動作型の高出力パルスレーザを採用しました(図3(b))。■今後の展望風と水蒸気に加えて、豪雨発生の重要な要素である気温も測ることができるマルチパラメータライダーの開発も計画しています。マルチパラメータライダーの実現には送信光の波長を3つ以上用いる多波長化技術が必要になります。マルチパラメータライダーにより風・水蒸気・気温の空間分布と時間変動を観測できるようになれば、豪雨の予測精度向上に大きく貢献できると考えています。図1 積乱雲の発生前から雨が降るまでを示した模式図図3 差分吸収ライダーの構成(図上)と試作した(a)種レーザと(b)パルスレーザ図4 差分吸収ライダーとラジオゾンデにより観測された水蒸気量の比較図2 差分吸収ライダーによる風と水蒸気の計測方法の原理7NICT NEWS 2022 No.2
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