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高精細航空機搭載合成開口レーダー(Pi-SAR X3)の開発とその実証実験世界最高分解能15 cmの映像レーダーが拓ひらく次世代の地表面計測技術児島 正一郎(こじま しょういちろう)電磁波研究所 電磁波伝搬研究センターリモートセンシング研究室研究マネージャー大学院博士課程修了後、運輸省港湾研究所(現独立行政法人港湾空港技術研究所)の特別研究員を経て、2002年、独立行政法人通信総合研究所(現NICT)入所。海洋レーダー、航空機搭載合成開口レーダー(Pi-SAR X2)等の研究に従事。現在は、主にPi-SAR X2の後継機であるPi-SAR X3を研究開発に従事。博士(工学)。空機搭載合成開口レーダー(以後、「航空機SAR」と呼ぶ)は、航空機の進行方向に対して直角方向の斜め下方向の地表面に電波を照射し、散乱されて戻ってくる電波を受信して解析処理することで地表面を画像化する映像レーダーです。航空機SARは昼夜・天候に左右されることなく地表面を計測できます。今回紹介する高精細航空機搭載合成開口レーダー(以後、「Pi-SAR X3」と呼ぶ)は、これまでNICT で開発した航空機SAR(Pi-SAR2)の機能・性能を向上させ、世界最高である15 cm分解能で地表面の観測を可能にしました。本技術は、図1に示す地表面の環境・災害モニタリング分野での活用が期待されており、今後は観測技術及び解析技術の研究開発を進め、社会実装への取組を推進していく予定です。■航空機SARの高分解能化の課題合成開口レーダー(以後、「SAR」と呼ぶ)は、高い空間分解能を得るために合成開口処理とパルス圧縮処理を行っています。合成開口処理は、飛行方向の分解能を向上させる処理です。一方、パルス圧縮処理は、飛行方向と直角方向(以後、「レンジ方向」と呼ぶ)の分解能を向上させる処理です。合成開口処理は、SARを搭載した飛翔体を直線に飛行させることで、仮想的に上空に大きなアレイアンテナを形成させることで、あたかも指向性の高い大きなアンテナで観測した時と同じ高い分解能で地表面を映像化する処理技術です。一方、パルス圧縮処理は、送信する電波の周波数を線形変調させながら送信し、受信した電波を解析処理することで電力レベルの大きな単パルス波で観測した時と同じ高い分解能で地表面を映像化する処理技術です。パルス圧縮処理によるレンジ方向の分解能向上は、送受信する電波の帯域幅に比例します。つまり、帯域幅が広ければ広いほど、レンジ方向の分解能を高めることができます。Pi-SAR X3では、9.2 GHzから10.2 GHzの電波(帯域幅:1GHz)を使用しています。この帯域幅は、Pi-SAR2に対して2倍の帯域幅で、広帯域に対応したアンテナと送受信機の開発が技術課題でした。また、広帯域化(高分解能化)に伴うデータ量の増加に対応した高速・大容量の観測データ記録装置の開発も技術課題でした。■Pi-SAR X3の開発Pi-SAR X3の研究開発では、世界最高水準の分解能15 cmを達成するために1 GHz帯域に対応した送受信機とアンテナを新たに開発しました。また、膨大な受信信号を遅滞無く記録するための高速・大容量の観測データ記録装置(書き込み速度:4 GB/s、容量:128 TB)を新たに開発しました。Pi-SAR X3の機器は図1のような形態で航空機に搭載されています。なお、膨大な観測データを機上において画像化する処理装置も開発しました。これにより、観測画像を確認しながら観測を行うことができ、さらに、衛星通信等を利用して観測画像を地上に伝送するための準備ができています。■Pi-SAR X3の技術実証試験令和3年12月にPi-SAR X3の技術実証試験を実施し、Pi-SAR X3の分解能が設計値の15 cm分解能を満足していることを確FEATUREリモートセンシング技術特集Special Issue on Remote Sensing Technologies航NICT NEWS 2022 No.24

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