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川村 リモートセンシング研究室が担っている、NICTにおけるリモートセンシング研究は、現状、気象や環境計測がメインとなっています。 気象においては雨、風、雲、水蒸気などいろいろな要素がありますが、そういったものを電波や光を使ってしっかり計測する。特に最近では「線状降水帯」という言葉が日常のニュースでもよく登場するようになりました。突発的な大雨などにもいち早く対応できるよう、精度とリードタイムを上げていくための取組を行っています。 一方では、合成開口レーダ(SAR: Synthetic Aperture Radar)を使用し、火山や土砂災害、地震など、地表の変化については飛行機に搭載した合成開口レーダで対応します。 いずれにしても、こうしたセンシングの技術は、日常をしっかり捉えることができていて、初めて災害時のような非日常でも役立つものです。我々としては、リモートセンシング技術の先端を拓ひらきつつ、日常から非日常までシームレスに使うことができるものを確立しようということを意識しながら研究を行っています。■地球と地表の動きを捉える新技術――リモートセンシング研究室の、現在の主な研究テーマについて伺えますか。川村 まずは、航空機SARによる地表面の計測があります。主な用途として、例えば火山噴火前後の噴火口周辺の観測や、地震の際の地形変化などを捉えることなどに使われています。これに関しては、2代目のPi-SAR2から3代目Pi-SAR X3への代替わりを迎えており、令和3年12月15・16日に能登半島においてPi-SAR X3が最初のフライトを実施、機能検証を開始しています。 Pi-SAR X3は分解能15 cmと、Pi-SAR2の30 cmから高分解能化が図られています。ほかにもいろいろ新しい要素を付加し、高さ方向の精度も向上しています。今までの30 cm分解能でも性能としては高いものだったのですが、それが大幅に向上することで、どのようなデータが取れるようになるのか、私も非常に期待しています。 もう一つの大きなテーマが、気象関係です。フェーズドアレイ気象レーダは非常に高速で空間の把握ができるところに特徴があります。現在、我々は全国で4基を運用していますが、特に埼玉大学に設置されているものが最先端で、既存のフェーズドアレイ気象レーダの高速立体観測の機能に加えて高精度降水観測の機能も併せ持つ、世界初の実用型「マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)」となっています。 衛星から雲を測る「EarthCARE」というプロジェクトもあり、これは2023年に衛星が打ち上がる予定になっています。これに関しては、JAXAと協力し、世界初のドップラー計測機能を持つ雲レーダの開発を担当しています。同じく衛星関係で、雨を測るプロジェクトの「GPM(全球降水観測計画)」はすでに衛星が打ち上がっていますが、その後継ミッションも研究開発が進められています。 雨雲になる前の水蒸気を地デジ放送波の伝搬遅延によって観測する技術も、現在力を入れているテーマです。基本、レーダでは、空気中の水分は“粒”にならなければ観測できないのですが、前段階である水蒸気量を測ることができれば、より早期の気象予測に役立てることができます。そのため、水蒸気の計測は気象分野において非常にホットなテーマで、多くの研究チームが様々なアプローチを試みています。その中でも我々の地デジ放送波を使った計測は、伝搬遅延量をピコ秒(1兆分の1秒)の精度で計測でき、しかも突発的な豪雨の発生などとの関連性が高い、地表面に近くの水蒸気量を水平方向の積算で見ることができる点で、NICT独自の非常にユニークなものです。 特にこれに関しては、他機関とも協力し、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第2期の一環として、線状降水帯の発生頻度の高い九州に展開。線状降水帯への水蒸気の供給量についてモニタリングしつつ、技術の検証を行っています。 また、レーザー光を用いたライダー(Lidar:Light Detection and Ranging)で風・水蒸気やCO2などを測ろうという技術開発も行っています。レーザー光は直進性が高く、測りたい方向をシャープに指向できるのが大きなメリットで、現在はそのマルチパラメータ化などを大きなテーマとして研究を進めています。一方で、コストの高さが課題ではあるのですが、これに関しては、コストダウンのための技術開発も行っています。 風については、観測地点上の風向・風速を測るウィンドプロファイラという技術があり、これは気象庁が「WINDAS(ウィンダス)」として全国33地点に展開していますが、我々はその次世代技術の開発も進めています。 特にこれに関しては、地表近くの余計な事物からの反射(クラッタ)をどのように抑圧し、ノイズの少ないデータを得るかが課題です。我々の新しいシステムでは、メインのアンテナの周辺に、クラッ精緻な観測で環境を捉えるリモートセンシング技術FEATUREリモートセンシング技術特集Special Issue on Remote Sensing TechnologiesNICT NEWS 2022 No.22

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