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気象観測データは世界中で国家気象機関の気象業務・研究活動等に広く利用されており、近年、その精度確保を目的に、気象測器に関する国際規格の策定が進んでいます。晴天域における風の高度プロファイルを測定するレーダーであるウィンドプロファイラ(WPR)でも、国際標準化機構(ISO)による国際規格の作成が、世界気象機関(WMO)との連携の下で進められています。気象は、日常の暮らしから地球温暖化対策を見据えた将来の経済・社会の在り方に至るまで、人間生活に大きく影響します。過去に発生した気象現象の調査、現在の気象状況の把握、気象予報や気候変動の予測の全てにおいて、世界中で精度の確保された観測を行い、そのデータを蓄積・利用することが重要です。ISOでは、「大気の質」の専門委員会(TC 146)の下に設置された「気象」の分科委員会(SC 5)が気象測器に関するISO規格を担当しており、WMOにおいて気象観測手法や測器の標準を検討する観測・インフラ・情報システム委員会(INFCOM)と連絡調整を行いながら、必要な技術基準をISO規格として定めています。気象測器ごとに設置されるSC 5のワーキンググループ(WG)は、これまでに風速計・温度計・レーザーレーダー(ライダー)・気象レーダーに関するISO規格を策定してきました。日本では、日本産業標準調査会(JISC)を代表機関として国内審議委員会を組織しており、TC 146/SC 5の国内審議委員会では気象庁・研究機関・企業がISO規格の作成に取り組んでいます。乱流などが生み出す大気の電波屈折率の擾じょう乱らんにより、送信電波の散乱エコー(大気エコー)が発生します。WPRは、大気エコーのドップラーシフトを用いて、晴天域における風の高度プロファイルを優れた時間分解能(多くの場合は 10分~1時間程度)で測定するレーダーです。世界各地の気象機関が運用するWPRは、気象予報などの気象業務に活用されています。WPRのISO規格作成を担当するWG 8には、ドイツ・日本・アメリカ・フランス等のExpert(技術専門家)が参加しています。ドイツ気象局のVolker Lehmann氏が、WG 8をとりまとめるConvenor(コンビーナ)を務めています。2017年11月に設置されたTC 146/SC 5/WG 8が取り組むISO規格の作成は、作業原案(WD)、委員会原案(CD)、国際規格案(DIS)の各段階が順調に終了しています。2021年12月に開始された最終国際規格案(FDIS)の承認投票を経て、WPRのISO規格の作成が完了します。WPRのISO規格作成に関わる国内審議委員会には、WPRの観測網(WINDAS)を運用する気象庁、WPRを開発・製造する企業、WPR観測技術の研究開発や気象研究に取り組む研究機関が参加しています。国内審議委員会は、各国が培ったWPRの優れた技術が今後幅広く生かされることを見据えた、国際的にも評価が高い多くの提案をWG 8に行っています。NICTは、技術専門家としてWG 8における調整と議論に加わることで、ISO規格の作成に国際的な役割を果たしています。グランフロント大阪にあるNICTのオープンスペースにおいて、2019年5月にWG 8の第3回国際会議が開催されました。さらに、NICTが次世代WPRの基盤技術として開発に取り組んだアダプティブクラッタ抑圧やレンジイメージングが、それぞれ不要エコー(クラッタ)の低減とレンジ(高度)分解能を向上させるためのISO規格における推奨技術となっています。NICTが取り組んだWPRの研究開発成果が、WPRのISO規格の策定に生かされています。ウィンドプロファイラのISO規格策定 風を測るレーダーの標準化に向けた取組 FDISの表紙(一部を拡大)山本 真之(やまもと まさゆき)経営企画部 評価室 プランニングマネージャー(2021年12月31日まで電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター リモートセンシング研究室 主任研究員)⼤学院修士課程修了後、企業・大学での勤務を経て、2015年よりNICTに入所。大気リモートセンシングの研究に従事。博士(情報学)。川村 誠治(かわむら せいじ)電磁波研究所 電磁波伝搬研究センターリモートセンシング研究室 室長2003年大学院修了後、日本学術振興会特別研究員を経て2006年NICT入所。レーダーリモートセンシングの研究に従事。博士(情報学)。 経営企画部 評価室 プランニングマネージャー  山本 真之 電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター リモートセンシング研究室 室長  川村 誠治NICT NEWS 2022 No.212

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