図2 ナウキャストが予測した10分後のZH(降雨強度に対応)上段 上空600mにおける時刻Tの観測値、中段 T+10分後の観測値、下段 T+10分後のナウキャスト予測値図3 ナウキャスト予測改善のために検討すべき事項の例データのみを使います。モデルの訓練はあらゆる種類の降雨データを使って行われます。これにより、豪雨をもたらし得るすべての予兆を認識できるロバストなモデルを開発します。第二のタスクは、モデルの詳細決定及び実行です。時系列分析では、回帰型ニューラルネットワーク(RNN)を用いた手法が確立しており、画像解析では、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた手法が確立されています。我々は、これらを組み合わせた手法を検討しています。先行研究としては、Shi et al.(2015)により提案されたCRNNが、我々が検討中の空間分解能より低い2Dデータを用いたナウキャストで使用されています。第三のタスクは、モデルを検証し、共同研究を実施している大阪大学の研究結果との比較を通じて、モデルの性能を評価することです。■解決すべき課題我々が開発するナウキャストモデルは、大量の観測データに含まれる時間的及び空間的特徴を認識し、外挿できるように設計する必要があります。この種の研究では多くの場合2次元観測データのみが使われますが、目的達成のためには3次元空間での考慮が必須です。さらに、我々のモデルは、MP-PAWRが収集可能なすべてのデータ(すなわち、ドップラー速度及び水平偏波・垂直偏波のレーダー反射率)を予測計算に利用できるように設計します。大量のデータを用いて3次元で演算を行うため、開発するモデルのパラメータ数は107個を超えており、この訓練には処理能力の高いGPUを用いても数週間の期間を要します。■これまでの成果図1は、我々が開発した3次元マルチパラメータ時系列モデルの概要を表しています。このモデルにおける「マルチパラメータ」とは、3つのレーダーパラメータを指しています(すなわち、水平偏波のレーダー反射率(ZH)、水平偏波の反射率と垂直偏波の反射率との比(Zdr)、及びドップラー速度(Vd)です)。ZHは降雨強度、Zdrは雨滴の種類及びVdは雨滴の動きに関わる観測量です。例えば、10 dBZのZH値は、1時間あたり約0.05 mmの小雨に相当し、37 dBZのZH値は、1時間あたり9 mmの大雨に相当します。このモデルのコアは、ConvGRU3Dユニットをベースとした4層構造のエンコーダー/デコーダーモジュールです。各層は、指定された空間サイズ及び解像度でデータの特徴量の解析を実行します。エンコーダーは入力系列から時空間的特徴を抽出し、デコーダーはそれらを外挿します。モデルの訓練は、2018年8月から10月の間に収集されたすべての降雨観測データを用いて行いました。図2は、ナウキャストが予測した10分後の降雨強度と、実際の観測結果を示しています。ナウキャストによる予測は、少し不鮮明になっているものの、観測と良く一致しています。また、我々のモデルは、他のチームが開発したモデルと同等の性能を示しています。ただし、他のモデルと同様に、本ナウキャストモデルの精度は、10分を超えた予測では大幅に低下します。■将来の展望大雨の予測は本ナウキャストの最優先事項ですが、現在のデータベースでは大雨のデータが不足しています。図3に、ナウキャストを改善するための様々な方法を要約しています。今後は、最新の手法(敵対的学習、アテンション機構など)を用いて、アーキテクチャ及びモデルの訓練方法の改善をはかります。また、訓練用データベース中の大雨の事例を増加させることを考えています。しかしながら、異なるアーキテクチャ・モデル訓練法を使ってもモデル性能に明らかな差異が認められないときは、現在レーダーから得られていない情報(相対湿度や曇量など)を含める必要があるかもしれません。これらすべての課題に効果的に取り組むには、大阪大学や理化学研究所などの研究チームとの交流を強化する必要があります。11NICT NEWS 2022 No.2
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