図1 モデルインターフェース(a)、RNNユニット(b)、及びエンコーダー / デコーダーアーキテクチャ(c)の概要図MP-PAWRによるAI短時間予測Philippe Baron(フィリップ・バロン)電磁波研究所 電磁波伝搬研究センターリモートセンシング研究室研究員1970年フランス生まれ。1999年大学院博士課程修了後、ストックホルム大学(スウェーデン)での研究員、ノベルティス社(仏トゥールーズ)での研究員を経て、2007年にNICT入所。電磁波を用いた大気センシングの研究に従事。博士(物理学)。り安全な社会の構築にとって局地的集中豪雨のリアルタイム予測技術の開発は重要な課題です。しかしながら、暴風雨のナウキャスト(暴風雨を、それが発生し得る数十分前に、数百メートルの空間分解能で予測する技術)は、従来の観測及び予測方法をベースとした場合、10分という予測時間の壁を超えることができていません。NICTは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の下、これまでにない高い時空間分解能で降水観測を実施可能なマルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)を開発しました。我々は、そのMP-PAWRによる降水観測データを活用し、ナウキャストの性能向上を目的とした人工知能(AI)ベースの予測技術の研究を進めています。■背景約5 km四方の小さなエリアにおいて数十分程度で急激に発達する局地的集中豪雨は、社会インフラの損傷や死亡事故を伴う深刻な水害の原因となり、その頻度は、気候変動によって増加すると予想されています。効率的な豪雨警報システムを開発するためには、豪雨の発生を高空間分解能で、かつ少なくとも発生数十分前に予測する必要があります。このような非常に短時間での気象予測はナウキャストと呼ばれています。局地的集中豪雨は突発的かつ狭い範囲で発生するため、従来の観測及び予測方法を用いて暴風雨ナウキャストを実現するのは極めて困難です。例えば、現存する最高性能のナウキャスト技術でも、局地的集中豪雨は、発生前10分以内の予測しか行うことができていません。2017年、NICT、東芝及び大阪大学は、SIPプログラムの下でMP-PAWRを開発しました。このレーダーは、2018年から埼玉大学で運用されています。MP-PAWRは、機械的な水平走査と電子的な垂直走査とを組み合わせ、半径60 km以内の大気を、30秒ごとに高い空間分解能でスキャンすることができます。したがって、豪雨の発達について、高度3 kmより上空で見られる初期段階から詳細に観測することができます。この情報は、豪雨のナウキャストモデルの入力として非常に有効です。教師付AIの一つであるディープニューラルネットワーク(DNN)は、高性能なナウキャストを達成するための有望な手段です。DNNは、データ中の特徴を認識することができ、高次元かつ非線形な問題に対しても、モデルの入力データから適切な出力を得ることができます。比較的小型のコンピューターでも、ナウキャストはリアルタイムで実行することができます。一方、モデルの訓練は、大量の観測データセットを用いるため、負荷の高い計算が必要となります。この訓練によりモデルのパラメータを最適化し、モデル出力値と観測値との差を縮めます。■開発計画我々は、手始めに各場所における降雨強度の予測を行う決定論的なナウキャストモデルを開発する計画です。この研究は、以下の三つのタスクに分けることができます。第一のタスクは、モデル訓練用とモデル検証用のデータベースを別々に構築することです。ここでは、MP-PAWR観測よFEATUREリモートセンシング技術特集Special Issue on Remote Sensing TechnologiesNICT NEWS 2022 No.210
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