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基に降雨と降雪の識別や雨粒の大きさと数の関係を求めることで、降水の強さをより精度よく求めることが可能です。また、NICTはJAXAと協力して日欧共同で進めている雲エアロゾル放射ミッション(EarthCARE)の衛星に搭載される雲プロファイリングレーダ(CPR)の開発も行ってきました。EarthCARE衛星の開発は現在、最終段階に入り、2023年度に打ち上げられる予定です。CPRはミリ波という高い周波数の電波を使用することでDPRでは検出できないような雲や非常に弱い降雨や降雪を測ることが可能です。また、CPRはドップラー速度計測機能があり、雲や雨の鉛直速度を測定することが可能です。落下速度の違いから両者を識別し、雲粒の大きさや雨量などの推定にも役立つことが期待されています。そして、同時に搭載される他のセンサーのデータと合わせて解析することで、地球温暖化の予測精度向上につながることも期待されています。■将来の衛星搭載降水レーダーは航空機SARとのコラボレーション!?冒頭で触れたような豪雨災害を軽減するためには、大雨をもたらすような降水雲の発生・発達・衰弱する仕組みをより深く理解し、数日先の天気予報や数十年先の気候予測のための気象・気候の数値シミュレーションで使われる雲や降水の表現をより正確にする必要があります。 現在、議論が進められている次期衛星搭載降水レーダーでは、地球上の様々な降水雲の中の動きを観測してその仕組みを解き明せるように、降水のドップラー速度計測機能が検討されています。なんと、その機能は航空機搭載合成開口レーダー(SAR)による移動体観測技術が応用されそうなのです。NICTでは航空機搭載SARを運用した研究開発が1990年代から続いており、空間解像度が非常に高い地表面状態の観測が可能です。航空機SARの移動体観測技術を応用して人工衛星からの降水のドップラー観測はまだ実証されていないので、航空機SARの研究者と協力しその実現に向けた議論を今まさに進行中です。図3にあるようにNICTで長年取り組んできた様々なレーダー観測技術が次期衛星搭載降水レーダーで結集するのです。■今後の展望NICTが長年培ってきたリモートセンシング技術を基に防災減災につながる情報を地球規模で共有し安全・安心な社会を実現する、そのために必要な雲や降水の情報を宇宙から取得するためにはJAXAを含めた外部機関の研究者たちとこれまで以上の連携が不可欠です。私たちはその実現に向けた研究をすすめていきたいと思います。今回は、TRMM/GPM/EarthCARE/航空機SARの目的や得られた(期待される)成果は割愛いたしましたが、この記事を通してそれらに興味が湧いた方は詳細な解説記事が数多くありますので、そちらもご覧ください。私もその一人で、気づいたらNICTでお仕事をさせていただいています。もしよかったら、宇宙からの雲・降水観測の将来を一緒に考えてみませんか!?図1 TRMM衛星に搭載されたPRが17年間(1997年12月から2015年3月まで)に観測した世界の降水量分布。単位は30日当たりの地表面降水量(mm)図2 GPM主衛星に搭載されたDPRが7年間(2014年3月から2021年11月まで)に観測した世界の降水量分布。単位は30日当たりの地表面降水量(mm)図3 NICTがこれまで関わってきたレーダー観測技術の研究開発とそれらを組み合わせることで実現が期待される将来の衛星搭載降水レーダー(仮)。衛星外観図はJAXAから提供されたものです。Pi-SAR2はNICTが開発運用した航空機搭載SARの名称です。本記事をまとめるにあたり、JAXA降水観測ミッション(PMM)分科会 後継ミッション検討グループ報告書「将来の降水観測ミッションへの提案」を参考にしました。衛星外観の写真はJAXAデジタルアーカイブス( https://jda.jaxa.jp/ )から利用させて頂きました。また、PRとDPRの降水量データはJAXA 地球観測衛星データ提供システム(https://gportal.jaxa.jp/gpr/ )から入手できます。9NICT NEWS 2022 No.2

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