HTML5 Webook
10/16

宇宙からの全球雲・降水観測技術の研究開発衛星搭載雲・降水レーダーのこれまでとこれから金丸 佳矢(かねまる かや)電磁波研究所 電磁波伝搬研究センターリモートセンシング研究室研究員大学院博士後期課程修了後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京大学を経て、2019年にNICTに入所。人工衛星から電波を発射し、降水の強度分布を観測する衛星搭載降水レーダーの解析研究に従事する。博士(理学)。を宇宙から測ることは可能なのでしょうか?答えはYesです。空飛ぶ雨量計こと衛星搭載降雨レーダーの登場によって、様々な場所で降る雨の特徴を把握し、地球規模の雨分布を正確に測ることが可能になりました。また、衛星搭載雲レーダーによる雲の鉛直速度の観測が近日始まるように、宇宙からの全球雲・降水観測技術はより高度化しています。ここでは、NICTが実現のために長年携わってきた衛星搭載雲・降水レーダーを簡単に触れつつ、その最新動向について現場から報告します。■なぜ宇宙から観測が必要なのか?世界の各地で豪雨や干ばつなどの異常気象が多発し、日本でも数十年に一度起きるとされる大雨や持続的猛暑が毎年のように起きています。最新の研究では、豪雨災害をもたらすような大雨の発生確率が地球温暖化に影響されていると報告されています。豪雨は地球温暖化のような地球規模の広域的な変化に影響される一方で、降水(降雨と降雪をあわせたものを指します)そのものは水蒸気が凝結し雲粒が雨粒や雪片に成長して落下する局所的な現象です。そのため、降水を監視するには局所性と広域性を兼ね備えた観測方法が必要になります。地上雨量計や気象レーダーによる降水の観測網が実現されているのは先進国に限られます。国境をまたぐ国際河川では遠く離れた上流で降る雨を把握し水害に備えることが必要ですが、自然環境や紛争地域などによって観測が難しい場所もあります。地球規模で降水分布を把握するとなると、地球表面を均一に繰り返し観測することができる宇宙からの観測がほぼ唯一の観測手段になります。■NICTにおける衛星搭載雲・降水レーダーの開発研究NICTは、前身の電波研究所、通信総合研究所時代を通じ1970年代から宇宙からの降雨観測の実現に向けた研究開発を開始し、1990年代からは雨粒に成長する前の小さな雲粒を観測可能な宇宙からの雲レーダー観測の実現に向けた研究開発も行っています。これら研究開発の成果のひとつは、日米共同ミッションの熱帯降雨観測計画(TRMM)の衛星に搭載された降雨レーダー(PR)で1997年から2015年までの長期間にわたり、宇宙からの降雨観測を実現しました。引き続きNICTは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力して日米主導で国際的な協力体制で進められている全球降水観測計画(GPM)の主衛星に搭載された二周波降水レーダー(DPR)を開発し、DPRは2014年の運用開始以降、本稿執筆に至る今日まで順調に観測を続けています。PRとDPRは降水の立体構造の観測が可能で、その情報から地上降水量を高精度に観測できます。図1と図2は、PRとDPRがそれぞれ観測した地上降水量の空間分布になります。PRは緯度35度付近までを観測範囲として約17年の降水観測が行われました。DPRは緯度65度付近の中緯度までを観測範囲としています。緯度が高くなると弱い降雨や降雪が多くなるので、DPRはPRよりも高感度にすることで弱い降雨や降雪の検出を実現させました。また、DPRは2つの周波数の電波を用い、それら観測値の違いを雨FEATUREリモートセンシング技術特集Special Issue on Remote Sensing TechnologiesNICT NEWS 2022 No.28

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る