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ト)で、通信の対象が、人のいる場所から人のいない場所のデータセンシングに移っていこうとしています。例えば海の情報があります。海面温度、風向・風速、気圧などは気象に大きな影響を及ぼすので重要なデータなのですが、今は海の上には使いやすいネットワークがありません。しかし、より柔軟な衛星通信技術を開発することにより海をネットワーク化すれば、リアルタイムでデータを収集できるようになります。 このようなイメージが5Gの先にあるBeyond 5Gの姿と言えるでしょう。──大容量の光通信技術が重要になってきますね。門脇 光は電波と比べて大容量の通信ができます。また、光通信では衛星搭載用コンポーネントも小さくできるので、今後増えてくる小型衛星・超小型衛星に搭載しやすいのです。 また、量子暗号通信が実現できることも光通信の大きな特長です。光を使った量子暗号通信では、量子鍵をネットワークで配信しなくてはなりません。今のところ、地上の光ファイバーによる伝送では遠くまで届けることができません。しかし、人工衛星と地上の間を光通信で結べば、大陸を超えて量子鍵を届けることができます。海外では比較的大きな衛星を使って量子鍵を衛星通信で送ることに成功している国が既にありますが、私たちは、小型衛星で量子鍵を送る研究を行っています。 量子暗号については、NICTでは50 ㎏級の超小型衛星SOCRATES*2(エイ・イー・エス開発、JAXAによって2014年打ち上げ)にSOTA*3という衛星搭載用小型光通信機器を搭載し、量子暗号通信が実現可能かどうかの基礎的な実験を既に行っています。 また、衛星がインターネットとつながることで地上のネットワーク同様ハッキングされるおそれもあります。NICTには、量子暗号やサイバーセキュリティーを研究している部門もありますから、そことも連携してハッキング対策も進めていきたいと考えています。■次期技術試験衛星で行うこと──いよいよ次はETS-9*4での本格的な実験ですね。門脇 近年の新しい通信需要に対応するための実証プロジェクト「ETS-9衛星通信プロジェクト」が始まっています。 これは、静止衛星と地上の間で、10 Gbps級の光衛星通信の実証とKa帯(20/30 GHz)と言われる電波を使うより柔軟な衛星通信技術を開発、実証しようとするものです。 静止衛星と地上間で10 Gbpsの光通信を実証するのは世界初です。 電波送信用アンテナはアクティブ・フェーズドアレイ・アンテナを採用します。これは、デジタル化したビームフォーマーにより電子的にビームを振ることができ、将来的に100ビーム級のマルチビームによって大容量通信を実現するための重要な要素技術です。またデジタルチャネライザという技術で各ビームに割り当てる帯域幅を柔軟に変更出来ます。これらの技術によりビームの方向や帯域幅を動的に制御することができるので、電波の利用効率が高まります。 NICTは現在、大学やメーカーと協力して搭載用無線通信装置を開発中で、ETS-9は順調に行けば、2022年に打ち上げられる予定です。■次世代を担う若者にも参加してほしい──フォーラムの活動の今後の展望は?門脇 この分野は技術の進歩が非常に速いです。大型衛星のように開発に5年も6年もかかっていては、打ち上げるころには古い技術を搭載しているということになりかねません。開発期間が長いとコストもかかります。ですから、小型衛星を使うことによって衛星開発のサイクルを短くし、低コスト化していくことも考えないといけません。また、コストを下げるために民生用部品を使うことも考えています。このような新しい宇宙開発の概念を提示していくのもスペースICT推進フォーラムの目標の一つであると考えています。 そのために、大学・民間企業を含めていろんなアイデアとご意見を頂き、議論をしながら日本の宇宙通信技術の研究開発の方向性を打ち出していきたいと思います。 またフォーラムには、学生の方々にも参加していただき、一緒に宇宙について語る場にしていきたいです。衛星通信に関心を持った若い世代の研究者がもっと増えてくれればいいなと思っています。*1 IoT : Internet of Things*2 SOCRATES : Space Optical Communications Research Advanced TEchnology Satellite*3 SOTA : Small Optical TrAnsponder*4 ETS-9 : Engineering Test Satellite-93NICT NEWS 2021 No.1

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