図1 NICTでの低軌道衛星との光通信の伝送速度と搭載機器質量の20年の進化図2 CubeSOTAミッションの実証実験計画図: 地上との直接通信 (中央)とキューブサット–地上間のデータ中継衛星 (左右)に縮小します。現在公的宇宙機関にしか手が届かない深宇宙探査ミッションの数は、低コスト化のために大幅に拡大する可能性があるでしょう。最も重要なことは、通信速度が現在キューブサットの最大のボトルネックであるため、キューブサットの機能を拡張し、それを一般ユーザに提供することによって、今では誰も想像できなかった全く新しいアプリケーションがもたらされる可能性がある点です。これがキューブサットの真の価値であり、光通信によって新しい可能性の世界が開くと期待されています。■NICTの有利な立場NICTは光衛星通信分野の研究開発で、長い歴史を持っています。低軌道(LEO)衛星に関しては、2006年に光衛星間通信実験衛星(OICETS)を用いて、世界で初めてLEO–地上間における50 Mbit/s の光通信に成功しました。それから10年も経たないうちに、質量 5 kg程度の光通信端末の小型光トランスポンダ(SOTA)を開発しました。SOTAを搭載した衛星はSOCRATESと呼ばれ、50 kg級の超小型衛星では世界初となる10 Mbit/sの地上との光通信や量子暗号の基礎実験など、2014年以降様々な実験を実施しました。現在は、キューブサットのプラットホームを使用してCubeSOTAと呼ばれるLEO光通信端末により、質量の削減と通信速度の拡大を目指しています。図1に示すように、通信速度の改善は2〜3桁、質量はほぼ1桁改善できる見込みです。キューブサットはロケットで打ち上げるだけでなく、国際宇宙ステーション(ISS)から宇宙空間に放出するサービスも利用できます。日本はロボットアームを使用してISSの日本実験棟「きぼう」モジュールからキューブサットを放出する独自の機構を持っているため、有利な立場にあると言えます。ISSを利用するメリットとしては、年に6回ほどの頻繁な打ち上げ機会があることと、専用コンテナにより打上げ時の振動を低減でき、軌道投入前には宇宙飛行士によるキューブサットの事前確認が可能なことが挙げられます。デメリットは、ISSの軌道が低い(約400 km)ため、衛星の寿命が約1年に制限される点がありますが、技術実証には十分な期間であると言えます。■ NICTにおける現在の研究開発の取組SOTAの小型化の実績を受けて、東京大学と協力してキューブサット向けの小型光通信システムを開発しています。現在は2台のCubeSOTAを用いて、マルチギガビットの通信を実証する準備をしているところです(図2)。1台目は地上との直接通信を実証し、2台目はデータ中継衛星を介して、衛星間通信を実証できるシステムを検討しています。これらの開発における課題には、光増幅器、望遠鏡、精追尾光学系及びモデムの小型化が含まれます。実験や実証の目的で衛星を打ち上げる前の最初のステップとして、成層圏プラットフォーム(HAP)等の活用も検討中です。様々な場所での実験を可能とする可搬型光地上局の開発も推進しており、容易に展開できる地上側の技術に関しても研究開発を実施しています。NICTでは、キューブサット用の高速通信の実現可能性を実証するだけでなく、光通信機器の小型化による普及展開を目指しています。目標は、今後の商用化のために民間に技術移転できる設計を実施し、NICTのプロトタイプ機器を開発することです。超小型衛星において初めて高速通信を実現することで、革新的な科学的研究を推進し、全く新しいアプリケーションの創出と開発が行われることに期待が寄せられています。11NICT NEWS 2021 No.1
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