HTML5 Webook
11/16

徴があります。現在、電波で行っている通信を光に置き換えることができれば、より大容量な通信回線が実現できるだけではなく、電波資源不足の解消への貢献も期待されます。ETS-9では静止軌道と地上間で10 Gbps級の通信回線を実現することを計画しており、そのために超高速先進光通信機器(HICALI)の開発を推進しています。HICALIのアンテナ口径は15 cm、用いるレーザーの波長は1550 nm(C帯)で、この波長は標準化組織であるCCSDS(宇宙データシステム諮問委員会)で議論されている国際標準に準拠しています。また、地上で活用されている光ネットワークのデバイスを宇宙で活用するためのスクリーニングプロセスの確立も目指しています。一方で、光は大気や雲の影響を大きく受けるため、大容量の通信回線が構築できたとしても、光の信号の乱れや遮しゃ蔽へいが通信品質の低下につながります。そのために、大気ゆらぎの影響を軽減する補償光学技術や、複数地点に配置した光地上局を切り替えて利用するサイトダイバーシティ技術についても研究を進めています。■超多数の通信衛星をつなぐネットワークに関する研究近年、多数の通信衛星でグローバルな通信ネットワークを提供できる衛星コンステレーションシステムが計画されています。このような大規模衛星通信システムには、将来的に、軌道、周波数、サイズ、電力等が異なる衛星が存在することが予想されます。また、時間的に変動するユーザ数やその通信要求、利用できる衛星数、電磁波の伝搬状態に応じ、安定した通信回線を常時提供するためのネットワークの最適化が必要です。筆者は、大規模衛星通信システムを効率的に運用するためのモデルと、全体のネットワークをダイナミックに最適化する制御方策を提案し、開発しました(図3)。このモデルでは、異なる軌道や異なる周波数の衛星がシステムに追加されても同じ枠組みで対応することが可能です。さらに、衛星通信オペレータの負担となるネットワーク構造の頻繁な変更を回避することも可能です。このモデルと最適制御方策、大規模衛星通信システムの運用シナリオに基づき、提案した方法の有効性をシミュレーションで確認しました。筆者は、システムが拡大して徐々に衛星数が増えた場合でも、更に性能向上ができると考えています [3]。■今後の展望ここでご紹介した技術のほか、NICTでは、衛星通信と5Gの連携に関する研究も進めており、ETS-9を実証テストベッドとする利用実験等も検討中です。大容量で柔軟な通信回線が提供できる衛星通信システムが実現されることで、航空機、船舶、離島、砂漠、山岳地、そして惑星など、どこにいてもユーザの要求どおりの通信が可能になると考えられます。このような世界を実現するためにも、NICTでは引き続き、新しい衛星通信システムの研究を推進し、成果を発信していきます。図1 ETS-9通信ミッション(NICTが開発中の主なサブシステムを明記)図3 大規模衛星通信システムのネットワーク最適化のイメージA シミュレーションにおける通信衛星のビーム配置図2 周波数フレキシビリティ機能の制御アルゴリズムを用いたシミュレーションB 周波数フレキシビリティ機能のシミュレーション結果9NICT NEWS 2021 No.1

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る