阿部 侑真(あべ ゆうま)ワイヤレスネットワーク総合研究センター 宇宙通信研究室研究員大学院修士課程修了後、2017年NICT入所。2020年博士課程修了。技術試験衛星9号機プロジェクトをはじめ、大規模衛星通信システムのモデリングやリソースとネットワークの最適化に関する研究に従事。博士(工学)。ハイスループット衛星や超多数衛星をつなぐグローバル通信網の最適化技術試験衛星9号機の計画とネットワーク制御技術の実現に向けて星数が急激に増加しており、規模が拡大している衛星通信システム。さらに、通信衛星も高機能化しつつあります。NICTでは、効率的な運用が可能な衛星通信システムの実現を目指し、リソース割当てやネットワーク構築のための制御モデルと最適化アルゴリズムに関する研究を進め、2022年度打上げ予定の技術試験衛星9号機(ETS-9)を用いて一部の技術の実証を計画しています。■衛星通信の背景宇宙空間の通信衛星と地上間で行われる衛星通信は、主に地上の通信ネットワークに接続できない場所で使われています。衛星通信の身近な利用例は、衛星を介して航空機と地上局が通信する機内インターネットです。また、衛星通信は、災害時に多くの地上ネットワークが利用不可能な場合にも通信回線を提供することが可能です。さらに近年では、IoTの通信需要も急増しており、衛星通信システムの大容量化が求められています。■ETS-9の全体計画限られた電波資源を有効に利用するために、NICTでは、衛星通信の大容量化技術やフレキシビリティ技術に関する研究開発を推進しており、2022年度に打上げ予定のETS-9での実証を目指しています[1]。図1にETS-9の通信ミッションの概要を示します。ETS-9には固定ビーム、可変ビーム、光フィーダリンクの通信ミッションが搭載されていて、JAXAが衛星バスを開発し、NICTが通信ミッションを開発しています。ETS-9で実証予定の技術は、大きく分けて以下の2つです。周波数・エリアフレキシビリティ技術従来の通信衛星では、各地域に割り当てられている通信リソースは固定のため、災害時など、時間的に通信需要が急増する場合、多くのユーザが通信できなくなる可能性があります。この問題を解決するのが衛星通信のフレキシビリティ技術です。周波数フレキシビリティ技術は周波数帯域を、エリアフレキシビリティ技術は通信が可能な領域を柔軟に変更できる機能です。これらの技術を用い、ユーザの通信要求に応じて衛星搭載機器を制御することで、必要な場所に必要な分だけの通信リソースを割り当てることが可能となります。ETS-9には、これを実現するための通信ミッションが搭載されています。通信には20~30 GHz帯(Ka帯)の周波数が用いられており、1ユーザあたり100 Mbpsの伝送速度を実現することを目標としています。NICTが提案した周波数フレキシビリティ機能の制御アルゴリズムを用いたシミュレーション結果を図2に示します。このシミュレーションでは航空機への衛星通信サービスを仮定しており、通信要求の時間的な変動に応じて通信リソ―スの割当てが変更されていることが分かります[2]。このような機能を有する通信衛星の利用により、災害時も含め、通信できる人数がこれまで以上に増えると考えます。光フィーダリンク技術光通信は、電波を用いた通信に比べて大容量や高秘匿性、低消費電力などの特衛スペースICT特集Special Issue for Space ICT【参考文献】[1] 三浦 周、久保岡 俊宏、坂井 英一:技術試験衛星9号機による次世代ハイスループット衛星の通信技術確立に向けた取組み、電子情報通信学会誌、vol.102, no.12, pp.1080-1084, 2019.[2] Yuma Abe, Hiroyuki Tsuji, Amane Miura, and Shuichi Adachi, “Frequency Resource Management Based on Model Predictive Control for Satellite Communications System,” IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences, vol.E101-A, no.12, pp.2434-2445, 2018. DOI: https://doi.org/10.1587/transfun.E101.A.2434[3] Yuma Abe, Masaki Ogura, Hiroyuki Tsuji, Amane Miura, and Shuichi Adachi “Resource and Network Management Framework for a Large-Scale Satellite Communications System,” IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences, vol.E103-A, no.2, pp.492-501, 2020. DOI: https://doi.org/10.1587/transfun.2019EAP1088NICT NEWS 2021 No.18
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