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フィリピン政府情報通信技術局がNICTのTVホワイトスペース利用技術を採用

~フィリピンの公共施設に無料のインターネット接続を展開~

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2015年5月7日

国立研究開発法人 情報通信研究機構

ポイント

    • NICTホワイトスペース技術で、フィリピン全域にFree Wi-Fi接続を推進
    • フィリピン科学技術省情報通信技術局(ICTO)はTV帯のホワイトスペース利用を計画
    • NICT開発のホワイトスペース管理技術をICTOに提供する契約を締結

NICTは、このたび、フィリピン科学技術省情報通信技術局(ICTO、長官: Louis Napoleon C. Casambre)とTV放送帯ホワイトスペースの有効利用に必要な周波数管理技術を提供するための契約を締結しました。ICTOは、今後、フィリピンの公共施設全域にWi-Fiによる無料インターネット接続のためのインフラを展開するFree Wi-Fi Projectを推進し、その際に、ICTOはNICTが開発したTV放送帯ホワイトスペース技術を利用する予定です。NICTは、ICTOとTVホワイトスペース技術の提供に関する覚書を本年3月に締結しました。

背景

ICTOでは、フィリピン全域の公共スペース等において、無料のWi-Fiインターネット接続を提供するインフラ整備を計画しています。ICTOは、Free Wi-Fi Projectに活用できる技術の一つとしてTV放送帯のホワイトスペースに注目し、特にインターネット接続を十分に提供できていない地域への利用可能性について検討しています。ホワイトスペースの利用に当たっては、TV放送に干渉を与えないように慎重な運用が必要とされますが、そのためには各地点において利用可能な周波数を分析するホワイトスペースデータベース(以下「データベース」)と呼ぶ管理装置が必要になります。
一方で、NICTは、データベースをTVホワイトスペース利用に必要な技術の一つと位置付け、その技術的評価を行う目的で、米国や英国を含む世界各国の基準を満たすデータベースの開発を行い、実証試験を重ねてきました。NICTは、ICTOからの要請に基づき、このFree Wi-Fi ProjectにおいてTVホワイトスペースを利用するために必要なデータベース技術を提供することを目指し、覚書を締結して協議を重ねてきました。

今回の成果
ホワイトスペースデータベースの例
フィリピンのセブ島における、あるTVチャネルの放送視聴エリアの例(データベースにより計算)
(地図はGoogleマップを利用)

NICTとICTOは、このたび、NICTが開発したホワイトスペースデータベースをICTOが利用するためのライセンス契約を締結しました。
このデータベースには、ICTOが提供するフィリピンのすべてのTV放送送信所の情報が入力されており、地形情報に基づき放送エリアを計算し、指定した地点において通信に利用が可能なチャネルの一覧を作成することができます。
 将来的には、TVホワイトスペースを利用する通信システムが位置情報をデータベースに送信し、運用可能なチャネルをデータベースから通信システムに自動的に送信して、通信システムを継続運用するという利用形態が期待できます。
なお、フィリピンでは、今年2月から地上デジタル方式(ISDB-T)によるデジタルTV放送サービスが開始されています。このため、本データベースでは、日本において利用されている放送エリアの計算方式(ISDB-T対応)を採用しています。

今後の展望

今後NICTは、ICTOとの覚書に基づき、Free Wi-Fi Projectの推進に必要な技術協力を引き続き行っていきます。
TVホワイトスペースの利用については、各国の状況を踏まえて慎重に運用することが必要であり、NICTは今後、様々な状況に応じて柔軟に応用できるようTVホワイトスペース技術の研究開発を更に進めてまいります。
なお、2015年5月6日(水)~8日(金)にマニラで開催されるGlobal Summit 2015 (Dynamic Spectrum Alliance主催)において、ICTOがホワイトスペースデータベースをデモ出展します。

参考

TVホワイトスペースの研究開発に関する過去のNICTの報道発表
・2012年5月24日
テレビの周波数を利用したホワイトスペース通信の実証実験に成功
  ~利用可能なチャネルを提供するデータベースを用いて、オフロード(負荷分散)も可能に~」



・2014年7月23日
ロンドン市街地でホワイトスペースを用いた40Mbps高速ブロードバンド通信に成功!
  ~NICTの開発した周波数管理データベースが英国の電波規制当局Ofcomに認定~」



補足資料

図1 : フィリピンのTV放送情報を用いたホワイトスペースデータベースの例
図1 : フィリピンのTV放送情報を用いたホワイトスペースデータベースの例
[画像クリックで拡大表示]

データベースには実際のフィリピンのTV放送情報が入力されており、地形情報に基づきTV放送の電波伝搬を計算し、放送エリアを描画することができます。
図1は、ホワイトスペースデータベースの検索画面を示しており、セブ島における31チャネルのTV放送エリアが赤い線で描かれています。つまり、このチャネルは、赤で示された地域ではTV放送に利用されていると考えることができ、それ以外の地域では通信の用途に利用してもTV放送には影響を与えない(ホワイトスペースである)と判定することができます。無線システムを運用する際には、無線システムの位置が赤いエリアの中にあるのか外にあるのかを調べることにより、そのチャネルを利用できるかどうかを判定します。TV放送に割り当てられているチャネルは複数ありますので、すべてのチャネルについて同様の判定を行うことが必要です。なお、ホワイトスペースの判定においては、実際には無線システムからTV放送への影響も考慮する必要があるため、単純に放送エリア(赤で示された地域)の外にあるのかどうかだけで判定しているわけではありません。
このように、すべてのチャネルについて放送エリアを計算してホワイトスペースを判定すると手間がかかる上、運用を自動化することが困難なため、無線システムの位置において利用可能なチャネルの一覧を自動的に分析する機能が必要であり、このデータベースにはその機能が実装されています。図1の上部にはチャネル2からチャネル51までチャネルについて利用可能かどうかを示す表示部を設けており、地図上にピンを置き、必要なパラメータを設定してボタンを押すことにより、それらのチャネルが利用可能な場合には緑のマーク、利用不可の場合には赤のマークが自動的に表示されます。
実際のシステムでは、地図上に管理者がピンを置き手動で操作するのではなく、無線システムのGPSにより取得された位置情報がデータベースに送信され、データベースが自動的に計算を実行してホワイトスペースのチャネル一覧を無線システムに返信して、無線システムがその中から送信チャネルを選択することにより、運用が自動化されます。



用語解説

フィリピン科学技術省 情報通信技術局

情報通信技術局(The Information and Communications Technology Office, ICTO)は、フィリピン科学技術省(Department of Science and Technology, DOST)に設置された行政機関であり、社会経済の発展と公共サービスの提供を目的とする情報通信技術の開発・展開について指導、管理、調整を行っている。

ホワイトスペース

放送等の目的で割り当てられた周波数帯のうち、本来のシステムの利用がない場合や本来のシステムに与える影響が十分に小さい場合に、他のシステムが放送や通信の目的で二次的に使用することが認められた周波数帯。TV放送帯におけるホワイトスペースの利活用が世界的に検討されている。

Free Wi-Fi Project

Free Wi-Fi Projectは、フィリピンICTOが推進するプロジェクトであり、フィリピン全域に無料のWi-Fiアクセスを提供することが計画されている。Wi-Fiアクセスの提供場所には、公共スペース、公立学校、公園、図書館、政府機関、病院、地方医療拠点、空港、港湾、駅などが挙げられている。詳細は、以下の資料を参照。

ホワイトスペースデータベース

ホワイトスペースデータベースは、ホワイトスペースとして二次利用者が利用可能な周波数を、一次利用者の情報(送信所の場所、周波数、時間、送信電力等)や地形情報等を考慮し、一定の計算基準に基づいて選択して、その結果を二次利用者からの問い合わせに対して返答する装置や機能である。



本件に関する問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所
スマートワイヤレス研究室

石津 健太郎、児島 史秀
Tel: 046-847-5076
E-mail:

広報

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
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