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運動学習を効果的に行う方法

~ 一人より二人でやればうまくいく ~

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2014年1月27日
ポイント

    • 運動課題を行うときに、一人で行うより、運動技能が同等レベルのペアを弾力で連結すると、素人同士であっても、うまくできることを発見。
    • さらに、二人を連結した状態で練習を繰り返すと、一人で同じ回数の練習をするよりも上達が早い。
    • スポーツ訓練や運動時の繊細な動作を回復するリハビリテーションなどへの応用が可能。

独立行政法人 情報通信研究機構(NICT、理事長:坂内 正夫)は、インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial、プレジデント:Sir Keith O'Nions)、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR、代表取締役社長:平田 康夫)と共同で、同じ技能レベルの人同士がお互いに触れ合う力を感じながら運動課題を行うと、素人同士であっても、一人で行う場合よりもうまくでき、さらに上達も早いことを発見しました。
この実験結果は、スポーツ訓練やリハビリ訓練システムに広く応用することが可能であり、また、遠隔での動作訓練にも応用することができます。なお、本研究成果は、英科学誌Nature系の「Scientific Reports」(2014年1月23日号)電子版に掲載されました。

背景

力触覚によるコミュニケーションが私たちの行動にどのように影響を与えるのかについては、不明な部分が多くあります。その解明に向けて、私たちは、他者との力触覚による相互作用が運動技能とその上達に及ぼす影響に注目しました。力触覚コミュニケーションを使った運動技能訓練として、熟達者の運動を追随させることで素人の技能を向上させる試みがありますが、熟達者をその都度呼び出すことは困難であり、実用化は進んでいません。そこで今回、同じレベルの技能を持つ者同士の力触覚相互作用の技能上達に及ぼす効果を調べました。

今回の実験の概要と結果

実験概要
● 力覚インターフェースを使用して、初心者の二人の手先を仮想的なバネで連結し、回転カーソルによるターゲットを追従という同じ運動課題を練習させた。二人はお互いが連結していることは知らされず、「手先に力がかかることがある」とだけ告げられていたが、途中で連結に気付く人はほとんどいなかった。
実験結果
● 一人で練習する場合に比べて、同レベルの初心者に連結された状態の方がうまくカーソルを制御できることがわかった。
● また、相手が自分より下手であっても、二人で連結されていた方がうまく制御できることがわかり、さらに、学習もよりよく進んだことがわかった。

以上の実験結果から、同レベルのパートナーのリアクションが上達の重要な情報源であることが示唆されました。

今後の展望

二人を弾力で連結する仕組みは、安価な弾性素材(ゴムなど)でも実現でき、また、市販のロボットなどを利用しても比較的容易に実現できることから、スポーツ訓練や運動時の繊細な動作を回復するリハビリテーション、またそのリモート化に広く応用することができます。力触覚コミュニケーションが果たす役割についてさらに研究を進めるとともに、本結果を利用したスポーツ訓練システムやリハビリテーションシステムの提案を検討します。



補足資料

1. 実験手続きの概要

ペアになった被験者は、力覚インターフェースのハンドルを握り、ターゲット追従課題を行います。課題は、一試行一分間で、同じターゲットがそれぞれの画面に提示され、ランダムに動き回ります。60試行行いますが、その中には、連結がある試行と連結がない試行がランダム順に同じ数だけ含まれます。初めの10試行は回転のないカーソルですが、21試行目に回転が導入され、40試行目まで回転カーソルでターゲットを追従します。最後の10試行は回転のないカーソルに戻ります。成績評価には、各時点でのターゲットとカーソルの距離(位置誤差)を試行ごとに平均した値(cm)を使用しました。

2. 連結による“即時効果” : コントロール実験との比較
図 1 連結による即時効果
図 1 連結による即時効果


連結されることによってパフォーマンスが良くなる“即時効果”を示すのが図1です。連結がない状態で相手が自分よりどの程度上手かを横軸にとり、その相手と連結することで自分の成績がどの程度よかったかを縦軸にプロットしました(連結あり試行とその直後の連結なし試行との成績差)。
初心者同士と連結した場合、相手がより上手だと自分の成績も良くなりますが、相手の成績が自分より悪くても、自分の成績が悪くなることはなく、逆に良くなることが分かりました。熟練者と連結した場合、ターゲットと連結した場合と、初心者と連結した場合を比較すると、熟練者もターゲットもより誤差の少ない動きをするにも関わらず、少なくとも初心者同士で起こりうる二人の成績差の範囲内では、初心者と連結した方が成績が良いことが分かりました。

 

3. 連結による“学習効果” : コントロール実験との比較
図 2 連結訓練による学習の促進
図 2 連結訓練による学習の促進

連結された状態で練習を続けることで、一人で練習するより学習効果があることを示すのが図2です。別の被験者群で、同じ量の試行を一度も連結しないで一人で行いました。回転カーソルを導入した40試行のうち、最初と最後の連結のない2試行の間で成績の上昇(誤差の減少)を比較したところ、初心者同士で連結して練習した場合(緑)の方が、一人で練習した場合(赤)より、成績の伸びが良いことが分かりました。
連結した状態で練習することで、連結していない状態での成績も向上することから、連結が課題の学習を促進していることが示唆されます。

4. なぜ連結すると良いのか

いくつかのコントロール実験を実施した結果、自分の行動と無関係に外力が加わった場合にはこのような成績の向上は観察されず、また、単純な注意力の増加では説明できませんでした。リアルタイムに相手の反応が伝わる場合にのみ成績が向上することから、相手がどのようにターゲットに対応しているかという情報に加えて、自分の動きに対して相手がどのように反応しているかという情報を活用していることが分かりました。どのように情報を抽出し利用しているか、そのメカニズムについては今後の研究課題です。



用語 解説

力触覚

力触覚とは、人間の皮膚や筋肉において感じる、力覚(力の強さの感覚)、触覚(皮膚表面への機械的接触を感じる感覚)を示すもので、力触覚インターフェースを実現することにより、仮想世界とのインタラクションに大きな変化をもたらすといわれている。

力覚インターフェースを使用した仮想的バネ

自分の手先位置と相手の手先位置を計測し、その違いにバネ定数(K)をかけた力をモーターによって手先に与えることで、手先同士を連結する仮想的なバネを実現した。なお、安全のために、両者の手先の速度の違いに一定の粘性係数(D)も加えた。
連結に弾性を持たせることで、相手の影響を感じつつも、自分自身の独立した動きを実行することができる。

回転カーソルによるターゲット追従

手先の実際の動きと画面上に表示されるカーソルの動きの間に回転変換を加えた状態で、画面上のターゲットを追いかける課題。運動学習の研究でよく使われる実験手法で、今回は、手先とカーソルの間に時計回りに80度の回転を加えた。この場合、手先を上に動かすとカーソルが右斜め方向に動くので、上にあるターゲットに近づくためには、手先を左斜め方向に動かさなければならない。

掲載論文

英科学誌 Nature 「Scientific Reports」(2014年1月23日号)
掲載論文名:“Two is better than one: Physical interactions improve motor performance in humans”
著   者:ゴウリシャンカー ガネッシュ(NICT), 高木 敦士, エティエン バーデット (Imperial), 吉岡 利福, 大須 理英子,  川人 光男 (ATR)



本件に関する 問い合わせ先

脳情報通信融合研究センター
脳情報通信融合研究室

柏岡 秀紀
Tel: 080-9098-3236
E-mail:

広報

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923 
Fax: 042-327-7587
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