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テレビ放送帯のホワイトスペースで、LTE技術を活用した移動通信システムを世界に先駆け開発

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2013年11月27日
ポイント

    • 周波数利用効率が高いLTE技術を活用して、ホワイトスペースの利用可能な移動通信システムを開発
    • 従来のLTEシステムと共通の管理装置を利用することで、シームレスな通信と切替えが可能
    • 周波数の特性に応じた柔軟な対応が可能になることで、より高速で省電力を実現

独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 坂内 正夫)は、テレビ放送帯のホワイトスペースで利用可能な、LTE(Long Term Evolution) 技術を活用した移動通信システムを世界に先駆けて開発しました。今回開発したシステムは、基地局と端末アダプタから構成され、現在、使用されている携帯電話用通信帯(2GHz帯)以外にテレビ放送帯(470~710MHz)のホワイトスペースにおいて、LTE技術による移動通信を技術的に可能にするものです。このシステムは、複数の周波数帯間をシームレスに切り替えて通信トラフィックをオフロードさせるなど、周波数資源の有効利用と周波数特性に応じた柔軟な通信が可能であり、カバーエリアの広いモバイル機器向けブロードバンド通信などでの利用が期待できます。

※今回開発したシステムは、平成25年度に総務省から受託した「複数周波数帯の動的利用による周波数有効利用技術の研究開発」の成果を利用して実現したものです。

背景

スマートフォンやタブレット端末の爆発的な普及により、動画視聴などの大容量通信の需要がますます高まっており、通信需要を満たすための移動通信システム用の周波数不足は深刻化しています。その解決方法の一つとして、テレビ放送帯(470~710MHz)におけるホワイトスペースの活用が検討されており、米国や英国などでその運用に当たって制度設計が始まっています。また、テレビ放送帯のみならず、すべての周波数帯で、既存の周波数利用者と共存運用し、周波数利用効率を高めるダイナミックスペクトルアクセス技術の研究開発も行われています。NICTは、このホワイトスペースにおける通信を実現するために、周波数の利用状況を管理するホワイトスペースデータベース、及びそのデータベースと連動して運用するホワイトスペース無線LAN及び無線アクセス技術の開発を行ってきました。しかし、今後、次世代携帯電話システムであるLTEシステムの利用者数の増大が予想されるため、LTEシステムのホワイトスペースの活用に向けた研究開発を行ってきました。

今回の成果
今回開発したホワイトスペース対応LTEシステム基地局(左)と端末アダプタ(右)
今回開発したホワイトスペース対応
LTEシステム基地局(左)と端末アダプタ(右)

今回NICTは、テレビ放送帯(470~710MHz)のホワイトスペースで利用が可能なLTE技術(Release 8)を活用した移動通信システムの基地局と端末アダプタを開発しました。これらの機器は、LTEシステムの管理装置 (EPC: Evolved Packet Core)に接続されます。このEPCに2GHz帯で運用されている他のLTE基地局を接続することで、EPCによる同時制御が可能となります。
通信帯域幅は、テレビチャネルの1チャネル分(6MHz)に収まる5MHzのほか、連続する数チャネルを同時に用いて10MHzや20MHzでも運用が可能です。運用周波数は手動による設定ができるほか、基地局がホワイトスペースデータベースに接続して、基地局の位置情報や無線諸元に基づき計算される利用可能チャネルを取得し、自動的に設定することができます。また、通信時に利用可能な周波数の状況や、アプリケーションやトラフィック量に応じて、全二重通信方式を周波数分割複信(FDD)と時分割複信(TDD)の中から選択することができ、利用可能な帯域が限られている場合にはTDDを使用し、トラフィック量が多く見込まれる場合にはFDDを選択するなど、柔軟な周波数の利用が可能です。
UHF帯は、電波の回折等により地形や建造物による影響を受けにくく、また省電力でも比較的長距離の通信が可能であるため、カバーエリアの広いモバイル機器向けのブロードバンド通信での利用などが期待できます。

今後の展望

NICTでは、今回開発したシステムを用いて、実際の利用シナリオを想定した通信性能の評価や高度な制御方式の開発を行います。また、ホワイトスペースを利用する通信規格の標準化活動に引き続き貢献していきます。一方で、ホワイトスペースにおける移動通信は一般的に課題が多く、実運用の実現に向けては、テレビ放送をはじめとする他システムへの干渉を確実に回避するために、ホワイトスペース判定方法の策定が必要です。評価実験を通じ、本端末を用いて伝搬特性や通信性能を測定し、技術基準及び制度設計に資する情報として提供していく予定です。
本システムについては、11月28日(木)から29日(金)までNICT本部(小金井)で開催されるNICTオープンハウスにて展示します。



補足資料

今回開発したLTE技術を活用したホワイトスペース対応移動通信システム

今回開発した機器は、LTE技術を活用したホワイトスペース対応の移動通信システムの基地局(図1)と端末アダプタ(図2)です。表1に開発した基地局と端末アダプタの仕様を示します。端末アダプタは市販のパソコン等にUSB接続して使用し、市販のデータ通信端末のように使用することができます。また、基地局と端末アダプタは、テレビ放送帯(470MHz~710MHz)におけるホワイトスペースでの利用が可能ですが、商用のLTEシステムに割り当てられている2GHz帯に切り替えて運用することも可能です。
LTEシステムでは、基地局をEPCと呼ばれる管理装置に接続して運用します。EPCは、端末の位置管理や認証、基地局のハンドオーバを制御する機能を持っています。今回開発したLTE技術を活用したホワイトスペース対応移動通信システムの基地局も、このEPCに接続して運用します。その際、従来使用されてきたEPCと同じEPCに接続することができるので、ホワイトスペース以外の他の周波数帯で運用している既存のLTE基地局との間で端末のハンドオーバが可能になります。
図3に、実証試験のネットワーク構成を示します。基地局は、NICTが管理運用するEPCと、NICTが開発したホワイトスペースデータベースに接続されています。基地局は、ホワイトスペースデータベースに基地局の位置情報と無線諸元を送信して、それに基づき計算された利用可能なチャネルと送信電力を取得し、運用を行います。
ホワイトスペースにおいて、周波数利用効率が高い移動通信を実現したLTE技術を採用し、通信が可能な装置を開発したこと自体が大きな成果と考えていますが、本システムは周波数分割複信(FDD)と時分割複信(TDD)を切り替えて運用することが可能なため、利用可能なホワイトスペースのチャネル数や利用者が要求するトラフィック量に応じて最適な方式を選択し、さらに電波資源の有効利用を図ることを目指しています。
なお、開発したシステムは、実験試験局免許を取得して評価試験を行う予定です。


 

図1 ホワイトスペースLTE対応システム基地局、図2 ホワイトスペースLTE対応端末アダプタ



表1 開発したLTEシステム(基地局、端末アダプタ)の仕様
 項目 値 
 対応周波数  470-710 MHz, 2GHz帯
 信号帯域幅  5, 10, 20MHz
 送信出力  最大20 dBm
 変調方式  QPSK / 16QAM / 64QAM
※64QAMはダウンリンクのみ
 全二重通信方式  FDD / TDD
 多重化方式  OFDMA(ダウンリンク)
 SC-FDMA(アップリンク)


図3 構築したネットワークの構成
図3 構築したネットワークの構成



用語 解説

ホワイトスペース

ホワイトスペースは、放送等の目的で割当てが行われている周波数帯のうち、その周波数の利用がない場合や本来のシステムに与える影響が十分に小さい場合に、他のシステムが放送や通信の目的で二次的に使用することを対象とした周波数帯を指す。

LTE (Long Term Evolution)

標準化団体である3GPPにおいて策定されているブロードバンド移動通信用の規格。国内でも携帯電話への普及が始まっており、商用サービスでは800MHz帯や2GHz帯をはじめとする周波数帯で運用されている。今後、700MHz帯や900MHz帯での運用も予定されている。

ホワイトスペースデータベース

ホワイトスペースとして二次利用者が利用可能な周波数を、一次利用者の情報(送信所の場所、周波数、時間、送信電力等)や地形情報等を考慮し、一定の計算基準に基づいて選択して、その結果を二次利用者からの問い合わせに対して返答する装置又は機能。
NICTが開発したホワイトスペースデータベースは、以下のプレスリリース(2012年5月24日発表)参照。

EPC(Evolved Packet Core)

EPCは、LTEシステムにおける管理装置であり、いわゆるコアネットワークと呼ばれる。EPCは、端末の位置管理や認証、基地局のハンドオーバを制御する機能を担っており、LTEシステムを構成するための重要な要素である。



本件に関する 問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所 
スマートワイヤレス研究室

原田 博司、石津 健太郎、伊深 和雄、松村 武
Tel: 046-847-5076 
E-mail:

広報

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
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