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テレビの周波数を利用した国際標準無線LANシステムの実証実験に成功

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2012年10月16日

独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 宮原 秀夫)は、テレビ放送周波数帯(470MHz~710MHz)におけるホワイトスペースを利用した新たな無線LANの国際標準である、「IEEE802.11af」暫定規格(IEEE802.11af Draft 2.0)に準拠した「アクセスポイント」及び「端末」の開発並びに実証実験に、世界で初めて成功しました。本技術によって、激増するトラフィックに対処できる無線通信環境を実現するための、ホワイトスペースにおける無線LANの技術開発が推進されることが期待できます。

背景

現在、米国FCCや英国Ofcom等の規制当局をはじめ、日本でも総務省ホワイトスペース推進会議などにおいて、「ホワイトスペース無線通信システム」は、実現に向け、その技術の検討等が行われています。一次利用者を干渉から保護することが重要な課題であり、隣接チャネルへの干渉レベル制限値(スペクトラムマスク)を満たす送信機を開発することが、実用化に向けた大きな技術課題となっています。様々な国際標準化活動が進行している中で、NICT が技術提案を行いリードしているIEEE802.11afタスクグループは、ホワイトスペースにおける無線LAN向けの最新暫定規格(IEEE802.11af Draft 2.0)を発行しました。

今回の成果
国際標準IEEE802.11af暫定規格に準拠したアクセスポイントの内部
国際標準IEEE802.11af暫定規格に準拠したアクセスポイントの内部

NICTは、今回、最新の国際標準暫定規格(IEEE802.11af Draft 2.0)に準拠した「メディアアクセス制御層(MAC)」及び「物理層(PHY)」を搭載した、無線LANシステムの「アクセスポイント」と「端末」を世界で初めて開発しました。本実証実験では、前回NICTが開発した、ホワイトスペースデータベース(平成24年5月24日付け報道発表)に接続し、テレビ放送周波数帯(470MHz~710MHz)において、一次利用者に影響を与えない周波数(注1)が自動的に選択され、無線通信を開始できることを実証しました。なお、本実証実験システムは、総務省から受託した「ホワイトスペースにおける新たなブロードバンドアクセスの実現に向けた周波数高度利用技術の研究開発」の成果を利用して実現したものです。

今後の展望

NICTは、2014年度に策定完了を予定しているIEEE802.11afタスクグループにおいて、引き続き国際標準化活動を推進していくとともに、無線機の小型化・省電力化を検討し、技術移転を積極的に進めていきます。また、現在、総務省で検討が進められているホワイトスペース推進会議での議論の進展等に合わせて、IEEE802.11afの適切な仕様変更等を提案していく予定です。なお、NICTは、本実証実験システムの詳細について、10月17日(水)、18日(木)に東京で開催されるWi-Fi Alliance Member Face-to-Face Meeting(注2)において発表します。

(注1): 一次利用者に影響を与えない周波数とは、各国における一次利用者への干渉及び混信保護基準に基づいてホワイトスペースデータベースが算出する周波数を指します。現在、米国FCCや英国Ofcomではその計算基準を定める法令が整備されつつありますが、日本ではこれから具体的な検討が行われる予定です。
(注2):Wi-Fi Alliance Member Face-to-Face MeetingはWi-Fi Allianceメンバーのみの会合です。

補足資料

本実証実験システム

○ 今回開発したアクセスポイント及び端末
 今回開発したアクセスポイント及び端末の概観を図1、主な技術仕様を表1に、それぞれ示します。従来の2.4GHz帯及び5GHz帯で動作する無線LANである、IEEE802.11a/b/g/nのデータ通信デバイスに加え、今回新たに開発したIEEE802.11af Draft 2.0[1-3]に準拠した、ホワイトスペースを利用したUHF帯で動作する無線LANデータ通信デバイスを搭載しています。なお、USB接続により、LTE、WiMAX、PHSのようなデータ通信デバイスを接続して、インターネットへの接続手段とすることができます。

図1: 今回開発したアクセスポイント及び端末の概観
図1: 今回開発したアクセスポイント及び端末の概観

表1: アクセスポイントの仕様(UHF帯)
 項目  値
 周波数  470-710MHz
 通信帯域幅  6MHz
 送信出力  20dBm
 物理層変調  OFDM (IEEE802.11af Draft 2.0, non_HT_duplicate mode)
 サブキャリア変調  BPSK
 MAC方式  IEEE 802.11af暫定規格準拠
 アンテナ利得  0dBi


さらに、今回開発したアクセスポイント及び端末にはIEEE802.11af Draft 2.0に準拠したMACが実装されています。複数の端末がアクセスポイントと通信を行う際、各端末が同じチャネルを用いると、お互いに干渉を与えてしまいます(同一チャネル干渉)。結果として、図2(a)に示すように双方の通信品質が著しく劣化します。一方、IEEE802.11af Draft 2.0では、RLSS(Registered Location Secure Server)という端末間の干渉を防ぐためのローカルサーバを用いて、各端末間で同一チャネル干渉が起きないように別のチャネルで動作させることにより、図2(b)に示すように、双方の通信品質劣化を防ぐことができます。

図2: IEEE802.11af Draft 2.0 MACの動作の様子
図2: IEEE802.11af Draft 2.0 MACの動作の様子

(a)では、端末同士が同じチャネルを選択した結果、互いに干渉を与えてしまい、通信品質が劣化している。
(b)では、IEEE802.11af Draft 2.0 MACが動作し、それぞれの端末にはRLSSにより別のチャネルが割り当てられるため、干渉が起きない。

 

参考文献
[1] Zhou Lan, Keiichi Mizutani, Gabriel Villardi, Ha-Nguyen Tran, and Hiroshi Harada "An Overview of Standardization Development of IEEE 802.11af for WiFi in TVWS", SRW2012-11, Aug. 2012.
[3] 水谷 圭一,船田 龍平,藍  洲,原田 博司,“ホワイトスペース利用無線LANシステムにおける帯域可変型マルチチャネルシステム,”電子情報通信学会 技術報告,Vol. 112, No. 192, pp. 169-173, 2012年8月.

用語 解説

ホワイトスペース

本来、放送用などある目的に割り当てられているが、地理的条件や時間的条件によって、ほかの目的にも利用可能な周波数帯をホワイトスペースという。ホワイトスペースは、その周波数の利用がない場合や本来のシステムに与える影響が十分に小さい場合、ほかのシステムが放送や通信の目的で二次的に使用することが検討されている。外国では、技術基準を検討している国や標準仕様の策定も行われている。日本でも、総務省が発表した「周波数再編アクションプラン(平成24年10月改定版)」で、UHF 帯(地上テレビジョン放送用周波数帯)のホワイトスペースにおいて、センサーネットワークシステム等の実用化が可能となるよう、必要な無線設備の技術的条件やホワイトスペースを有効活用するための枠組みを検討する、とされており、そのための課題の洗い出しや技術開発が急務であると考えられる。日本においては、まず、平成24年4月よりホワイトスペースを利用したエリア放送システムが制度化されており、ホワイトスペースを利用した無線ブロードバンドシステムの実現に向けては、今後、日本の地上デジタルテレビジョン放送の利用状況や保護基準等を踏まえて検討していく必要がある。

IEEE802.11af

IEEE802.11afタスクグループは、2009年、ホワイトスペースで無線LANを運用するための国際標準規格を策定するために発足した。2014年の規格策定完了を目標に、標準化活動が行われている。
 <IEEE802.11afタスクグループ 公式ホームページ>

ホワイトスペースデータベース

ホワイトスペースデータベースとは、ホワイトスペースとして二次利用者が利用可能な周波数を、一次利用者の情報(送信所の場所、周波数、送信電力等)や地形情報等を考慮し、一定の計算基準に基づいて選択して、その結果を二次利用者からの問い合わせに対して返答する装置又は機能を指す。日本においては、干渉及び混信計算基準や、二次利用者の運用情報の取扱いについても、これから議論がなされていくものとみられる。
 前回NICTが開発したホワイトスペースデータベースは、以下のプレスリリース(2012年5月24日発表)参照

本件に関する 問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所
スマートワイヤレス研究室

原田 博司、藍 洲、水谷 圭一
Tel: 046-847-5076, Fax: 046-847-5440
E-mail:

取材依頼及び広報 問い合わせ先

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923, Fax: 042-327-7587
E-mail: