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ミリ波を用いた航空機-地上間の大容量無線通信システムを開発

高度8000mの航空機と地上との間で100Mbpsの双方向通信を実証

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2010年6月23日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)と三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。執行役社長:山西 健一郎)は、大容量通信が可能な周波数であるミリ波帯(30GHz~300GHzの周波数帯)を用いた航空機-地上間の高速無線通信システムを開発し、高度8000mの航空機と地上の間で従来の30倍以上となる100Mbpsの双方向通信実験に成功しました。本研究の一部は総務省委託研究「ミリ波帯高速移動体通信システム技術の研究開発」(平成17~21年度)の成果です。

背景

航空機内でインターネット通信を実現するシステムとして、航空機と地上間をマイクロ波帯(12/14 GHz帯)を用いた静止衛星回線で接続したシステムが実用化され、電子メール等で利用されています。しかし、近年の高速インターネット環境の普及に伴い、航空機内でも動画や音楽などの高速インターネット通信が可能な無線通信システムの実現が求められています。

そこで本研究開発では、マイクロ波帯よりもさらに大容量の通信が実現可能なミリ波帯を用い、航空機等の移動体向けインターネット通信環境を実現する無線通信システムを開発しました。

航空機などの高速移動体の無線通信にミリ波帯を適用するためには、長距離のミリ波帯通信を実現するアンテナの高性能化、移動体に搭載するための装置の小型・軽量化、航空機の姿勢に追随して電波の放射方向を高速に制御するアンテナ制御技術、ミリ波帯を用いた移動体通信に適したネットワーク技術が必要です。そこで、本研究開発ではNICT及び三菱電機が共同でこれらの技術を開発し、40GHz帯を用いて100Mbpsの伝送が可能な航空機用大容量無線通信システムを試作しました。

また、本システムを用いて、高度8000mを飛行する航空機と地上との間で実際に100Mbpsの双方向通信実験に成功いたしました。

今回の成果

  1. 設置性に優れた小型地上局
    地上局に固定されたアンテナの前面に設けた小型軽量の反射板の向きを制御することで、地上から航空機へ電波の放射方向を制御する技術を開発しました。本開発により、アンテナ本体の向きを制御する従来の方法に比較して可動部分が軽量化でき、地上局の小型化を実現しました。

  2. 航空機搭載可能な小型機上局
    航空機の姿勢の変化が比較的遅い進行方向に対しては機械的制御を行い、姿勢の変化が比較的速い左右方向に対しては電波の放射方向をAPAAで電子制御する技術を開発しました。さらに、ミリ波帯回路部にMMICチップセットを開発し、機上局の小型・軽量化を実現しました。

  3. ミリ波帯を用いた移動体通信に適した高速移動ネットワーク技術の開発
    航空機の移動に応じて接続する地上基地局を切り替えるハンドオーバ制御と、ミリ波帯無線回線の伝送可能帯域を伝搬距離に応じて変更する無線回線制御とを連携して、IP通信を継続させる高速移動ネットワーク技術を開発しました。

今後の展望

5年後の実用化に向けて航空産業や移動体の無線利用企業等へ積極的に導入の支援を行う予定です。
なお、本成果は6月24日(木)に総務省主催で明治記念館にて開催される「電波資源拡大のための研究 開発-第3回成果発表会」にて公開します。

補足資料 開発成果の補足

図1に、航空機用ミリ波帯無線通信システムの運用イメージ図を示します。本研究開発においては地上の基地局と航空機の間の通信にミリ波帯を用いました。一般にミリ波帯ではアンテナの小型化が可能であり、広い無線周波数帯域を利用した大容量通信が実現可能であるという利点がありますが、一方ではマイクロ波帯に比較して伝搬損失が大きいため長距離の無線通信には向いていないとされていました。

そこで本研究開発では、ミリ波帯を長距離の無線通信に利用可能とするために、長距離の無線伝搬を可能 とする高性能アンテナと、航空機の移動に追随して電波放射方向を制御するシステムを開発し、航空機を用 いた通信実験を実施しました。

図1 航空機用ミリ波帯無線通信システムの運用イメージ図
図1 航空機用ミリ波帯無線通信システムの運用イメージ図

1. 地上局

図2 に、開発した地上局アンテナの外観写真を示します。レンズアンテナと機械駆動による可動反射板を採用することにより、小型・軽量・低電力な設置性に優れた地上局を実現しました。機上局からの電波を高精度に自動捕捉することが可能です。

2. 機上局

図3に開発した機上局アンテナの外観を、図4にこれらのアンテナの航空機機体底部への設置の様子を示し ます。ミリ波帯半導体回路のMMICチップセット化により、航空機に搭載可能な小型・軽量な機上局を開発しました。航空機の姿勢の変化が比較的遅い進行方 向に対しては機械的制御を行い、姿勢の変化が比較的速い左右方向に対してはAPAAの電子駆動で電波の放射方向制御し、航空機の位置・姿勢データと地上局 位置から高精度に自動追尾することが可能です。

図3 機上局アンテナ部分外観写真
図3 機上局アンテナ部分外観写真 (左:送信、右:受信 電波の放射方向は上方向)
図4 機上局アンテナの航空機機体底部への設置状態
図4 機上局アンテナの航空機機体底部への設置状態

3. 高速移動ネットワーク技術

本システムでは、海上を飛行中などの理由で航空機が地上局と直接通信できない場合に、地上局と通信中の別の航空機が通信を中継することを想定しています。このようなときに適用するネットワーク技術の一部として、複数の航空機がミリ波帯無線回線により相互に接続されたときにも適用可能な、アドホックネットワーク経路制御技術を開発しました。

用語解説

APAA

Active Phased Array Antenna

MMIC

Monolithic Microwave Integrated Circuit:マイクロ波回路を単一チップ上に集積した回路

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