本文へ
文字サイズ:小文字サイズ:標準文字サイズ:大
  • English Top

テラヘルツ技術動向調査

~ センサー・通信・標準分野のロードマップを策定 ~

  • 印刷
2009年6月24日

独立行政法人情報通信研究機構(理事長:宮原 秀夫)は、財団法人テレコム先端技術研究支援センター(以下「SCAT」という。)に委託し、テラヘルツ技術動向調査委員会の永妻忠夫委員長(大阪大学大学院教授)の下、「テラヘルツ技術動向調査」を2009年1月~3月の間に実施しました。本委員会では、今後の産業化において核となる、「センサー」、「通信」、「標準」の3分野の部会を設置し、「ニーズは何か」、「テラヘルツ技術に何が期待されているのか」、「そのためにはどういう技術課題があるのか」、そして「その技術課題の克服に向けて、またターゲットニーズの達成に向けてどのようなロードマップで研究開発を進めていけばいいのか」を明らかにしました。そこでは、「高速・高感度テラヘルツカメラ」、「100Gbit/s無線」などが検討されています。

この調査結果はSCATが主催する第78回テレコム技術情報セミナー「テラヘルツ技術を新産業に」に於いて、6月26日(金)13:30~16:30に、コクヨホールで発表されます。

http://www.scat.or.jp/seminar/seminar.html

背景

国内外で、テラヘルツ技術に対する関心と期待が高まっており、ほぼ毎月のように日本のどこかで、技術セミナー、研究会、シンポジウムが開催されている状況です。国際的にもテラヘルツ技術に特化した会議のほか、欧米の主要学会が主催する会議においても、必ずテラヘルツ技術に関するセッションやシンポジウムがプログラムに組まれています。このような学術界の動きに同期して、総務省の委託の下、2005年3月に当時の研究状況とロードマップがまとめられ、その結果論文数の増加が物語るように、技術シーズは着実に進展しております。一方、産業界に目を向けてみると、4年前に予想したほどの大きな市場は生まれてはおりませんが、それでも、セミナーの参加者に産業界の方も多いことから、テラヘルツ技術に対し大きな興味を示していることが伺えます。

今回の成果

現在は、「技術シーズが醸成する」フェーズから、「応用(ニーズ)が牽引する」フェーズへの転換期であるとの認識に立ち、上述の3分野の各部会において議論を進めるとともに、3部会が集まる全体委員会を3か月間に4度開催し、活発な討論を行いました。総勢19名の委員(参照:補足資料)の皆様にご参加いただき、さらに、アンケート調査を利用することで50名を超える専門家の意見を集約しました。その結果、センサー応用に関しては「ユーザー側の視点でまとめ、どこまでの機器の小型可搬化、データ取得の高速・高感度化、低コスト化等を目指す必要があるか」その指針や方策を示しました。通信応用では、「高精細映像及びデータ伝送の分野での大容量無線伝送技術、大容量データを扱う分野での近距離(1~10m)無線が期待されている」ことを示しました。

光ネットワークの進展に呼応して、2020年頃には100Gbit/s無線の実現が望まれ、これを10年以内に実現できるのはテラヘルツ技術が最有力候補であると結論付けました。標準分野では、各種標準等の基盤技術の早期確立によって、ユーザーが簡便に操作でき、精度保証されたテラヘルツ帯の各種計測機器の開発が促進され、テラヘルツ技術の市場拡大につながっていくものと期待されます。

今後の展望

今回策定されたロードマップを参考として、テラヘルツ技術を産業利用にいち早く結びつけ、大きな市場を形成するための今後の研究計画を策定し、研究開発を加速する予定です。

補足資料

【テラヘルツ技術動向調査委員会委員】(敬称略)
委員長 永妻 忠夫 大阪大学大学院 教授
幹事 味戸 克裕 日本電信電話(株)
委員 飯田 仁志 (独)産業技術総合研究所
委員 大谷 知行 (独)理化学研究所
委員 小川 雄一 東北大学大学院 准教授
委員 小田 直樹 日本電気(株)
委員 尾辻 泰一 東北大学 電気通信研究所 教授
委員 久々津 直哉 日本電信電話(株)
委員 座間 達也 (独)産業技術総合研究所
委員 島田 洋蔵 (独)産業技術総合研究所
委員 荘司 洋三 (独)情報通信研究機構
委員 関根 徳彦 (独)情報通信研究機構
委員 塚本 勝俊 大阪大学大学院 准教授
委員 林 伸一郎 (独)理化学研究所
委員 原 直紀 (株)富士通研究所
委員 枚田 明彦 日本電信電話(株)
委員 深澤 亮一 (有)スペクトルデザイン
委員 矢板 信 日本電信電話(株)
委員 安井 武史 大阪大学大学院
オブザーバー   総務省 情報通信国際戦略局 技術政策課 研究推進室
オブザーバー 寳迫 巌 (独)情報通信研究機構
事務局   (財)テレコム先端技術研究支援センター

用語解説

テラヘルツ領域

概ね0.1THz~10THzの周波数帯の電磁波を示します。その波長は、3mm~30μmであって電波と光の境界に位置する。テラヘルツは1秒間に1兆回振動する波の周波数、10の12乗ヘルツ(1012Hz)で、THzと記述する。英語では、terahertz(“tera”は10の12乗を表す英語の接頭辞)と書く。

技術セミナー、研究会、シンポジウムを主催している国内学会等

フォーラム
テラヘルツテクノロジーフォーラム、その他。

学会
電子情報通信学会テラヘルツ応用システム研究会、応用物理学会テラヘルツ電磁波技術研究会、日本分光学会テラヘルツ分光部会、電気学会赤外線・テラヘルツ波将来技術調査専門委員会、日本赤外線学会、日本学術振興会テラヘルツ波科学技術と産業開拓第182委員会、その他

研究会
テラヘルツ波産業応用研究会(なごやサイエンスパーク)、テラヘルツ・電磁波応用研究会(長野県テクノ財団)、テラヘルツ応用研究会(岩手県立大学地域連携研究センター)、テラヘルツ電磁波産業利用研究会(JSTイノベーションプラザ大阪)、その他。

テラヘルツ技術に特化した国外学会等

International Conference on Infrared and Millimeter Waves/THz Electronics(IRMMW-THz)、International Symposium on Space THz and Technology(ISSTT)、International Workshop on Optical Terahertz Science and Technology(OTST)等。

また、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)、SPIE(The International Society for Optical Engineering)、EuMA(European Microwave Association)、OSA(Optical Society of America)といった欧米の主要学会が主催する会議や、マイクロ波やフォトニクス分野の会議においても、必ずテラヘルツ技術に関するセッションやシンポジウムがプログラムに組まれている。また、中国や韓国においても、日本のテラヘルツテクノロジーフォーラムに類似した組織が発足し、積極的に情報発信を行っている。

論文数の増加
学術文献データベースScitation+SPINで調査した「テラヘルツ」をキーワードとする論文数の推移
学術文献データベースScitation+SPINで調査した「テラヘルツ」をキーワードとする論文数の推移

「転換期」であるとの認識。テラヘルツ技術の進展と今後の進め方
「転換期」であるとの認識。テラヘルツ技術の進展と今後の進め方

今後、テラヘルツ技術を産業利用にいち早く結びつけ、大きな市場を形成するためには、今がひとつの「転換期」である。すなわち、これまでの「テクノロジープッシュ」のフェーズから、逆に、市場ニーズを予見し、それに向けた応用開発を「産官学」が連携して進めていくフェーズに向かうことが必要である。

センサー応用

センサー応用に関しては、前回調査の検証、メーカーへのアンケート調査、および競合技術との徹底比較を行い、今後市場拡大が期待できる、「工業材料(素材分析、半導体)」、「セキュリティー(危険物探知、薬物探知、遠隔監視)」、「農業・食品(食品検査、農作物検査)」、「製薬・創薬(医薬品検査)」、「バイオメディカル(バイオ、臨床診断)」、「非破壊検査(製品検査、芸術・文化財、LSI不良検査)」、「環境計測(大気環境監視など)」の各応用分野において、どのような性能・機能のシステムが要望されているかをユーザー側の視点でまとめた。そして、それぞれの応用において、どこまでの小型可搬化、データ取得の高速化、高感度化、低コスト化等を目指す必要があるかに関して、その指針や方策を示した。特に、今後最も注力すべき技術項目は、「次世代THz-TDSシステム」、「次世代低コスト小型分光システム」、「レーザーテラヘルツ放射顕微鏡」、「微小テラヘルツ分光チップ」、「高速・高感度テラヘルツカメラ」、「検出器アレー」、「高速テラヘルツカラーイメージャ」、「走査型テラヘルツイメージングレーダ」、「テラヘルツマイクロスコープ技術」、「テラヘルツ光学素子」、「高出力広帯域光源」、「周波数可変高出力単色光源」、「高出力単色光源」である。 

通信応用

通信応用では、今後2015年までに、「高精細映像及びデータ伝送の分野」で、「10Gbit/s~40Gbit/s」の無線伝送技術に対するニーズが顕在化していくであろう。高精細映像伝送のユーザーは、当面は放送事業者であり、最低でも1~2kmの伝送が望まれている。現在は、ハイビジョン映像素材(チャネルあたり1.5Gbit/s以上)を複数チャネル・非圧縮で伝送することが要求されているが、数年以内にスーパーハイビジョン映像素材(チャネルあたり24Gbit/s以上)の伝送が必要となる。「大容量データを扱う分野」では、ストレージ媒体とコンピューターやネットワーク間、映像装置とコンピューターやネットワーク間といった、「近距離(1~10m)無線」が期待されている。このような応用では、アンテナが小さいほど機器との相性がよく、加えて、無線送受信機のコストを下げるためには、「アンテナを含めたワンチップ集積化」が不可欠であり、ここにテラヘルツ波を用いるメリットがある。無線の高速化のアプローチとして、最近60GHz帯ミリ波通信でも検討されはじめた多値変調技術があるが、LSIチップの開発コストや実現時期を考えた場合、300GHz~1THzでASK、QPSKのような単純な変調技術を利用した方が「安価でかつ早期に実現できる」可能性が大きい。この場合、デバイス技術としては、InP HEMTを代表とする電子デバイス技術やフォトニクスとの融合技術が牽引役となるが、コンシューマー用途では、「RF-CMOS技術」が劇的な低コスト化のブレークスルーのために不可欠である。また、光ネットワークの進展に呼応して、2020年頃には「100Gbit/s無線」の実現が望まれ、これを10年以内に実現できるのはテラヘルツ技術が最有力候補であろう。

標準分野

標準分野では、近年急速に利用が拡大しているテラヘルツ帯機器に関して、標準、規格化、データベースという観点から、技術動向とニーズの調査を行った。標準については、テラヘルツ帯機器の開発者から、「測定結果(周波数、放射パワー)の絶対値」を定めるための標準の確立と測定精度の向上が強く求められていることが明らかになった。そこで、それを実現するための技術について詳細に検討し整理を行なった。また、「測定値の精度保証」のための技術確立が急務であり、その方法としては、FTIRの精度管理に用いられているような「標準物質」をテラヘルツ帯計測機器にも導入することが有望である。さらに、測定値の信頼性を担保するためには、「測定手順やサンプルの仕様等を規格化」し、比較試験等によって認定することが望ましい。これによって得られたスペクトルデータは、利用者が利用しやすい形でデータベース化していくことが重要である。以上のような基盤技術の早期確立によって、ユーザーが簡便に操作でき、精度保証されたテラヘルツ帯のスペクトルアナライザー、シンセサイザー、パワーメータ等の計測機器の開発が促進され、テラヘルツ技術の市場拡大につながっていくものと期待される。

成果の公開について

今回開催する第78回テレコム技術情報セミナー「テラヘルツ技術を新産業に」(日時:2009年6月26日(金)13:30~16:30、場所:コクヨホール)においては、「テラヘルツ技術の産業化に向けたロードマップ(委員長:永妻忠夫)」、「テラヘルツ波センシング技術の将来動向(センサー部会長:大谷知行)」、「通信・データ伝送分野でのTHz波無線技術への期待(通信部会長:久々津直哉)」、「テラヘルツ帯標準の研究開発動向について(標準部会長:島田洋蔵)」の全4講演が予定されています。

 

本件に関する 問い合せ先

新世代ネットワーク研究センター

寳迫 巌 
Tel:042-327-6508
Fax:042-327-6941 
E-mail:

広報 問い合わせ先

総合企画部 広報室

報道担当 廣田 幸子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
E-mail: