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テラヘルツ波を用いたラベルフリー生体物質検査システム

~食品、ライフサイエンス、創薬などの分野に革新的分析ツール ~

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2009年6月18日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)は、NICTの量子カスケードレーザー技術とNICTの委託研究で開発中のテラヘルツカメラを組み合わせ、ポータブルなテラヘルツカメラシステムを開発しました。今回、この技術と東北大学農学部のメンブレンフィルターを用いた生体物質検査技術を用いることで、特定の生体物質の結合を蛍光や発色等の付加的な化学反応なしに、迅速かつ簡便に検出することに成功しました。テラヘルツカメラシステムは、血液検査やアレルゲン検査、創薬、ライフサイエンスのためのハイスループットな分析ツールになると期待されます。この産学官連携の成果は、平成21年6月20(土)~21日(日)に国立京都国際会館で開催される第8回産学官連携推進会議で発表されます。

背景

食品中のアレルゲンや牛海綿状脳症(BSE)等の検査では、試験サンプルから特定の生体物質を検出する技術が不可欠です。また,創薬の研究にも、小分子化合物とタンパク質との選択的な結合を探し出すことが求められます。これらは、タンパク質など生体物質の持つ特異性を利用したものであり、血液検査や食品検査、ライフサイエンス分野など、さまざまな場面で利用されています。しかし多くの場合、これらの反応の有無や量を調べるには、二次抗体や標識物質を反応させ、発色や蛍光などで検出する必要があります。そのため、検査や分析には手間や時間がかかり、数時間から半日以上を要することがありました。

タンパク質等の生体物質はTHz帯に吸収があるため、THz波の透過特性を測定することで、THz波が透過するメンブレン上の生体物質を直接検出できます。そこで、NICTと東北大学農学部では、電波と光の中間にあるテラヘルツ(THz)波によるイメージング装置を用いて、メンブレンフィルター上の生体物質の結合を、標識化することなく(ラベルフリー)、迅速、簡易に検出できる方法を共同で開発してきました(図1)。

今回の成果

NICTの自主研究である量子カスケードレーザー光源とNICTの委託研究により、NECが開発したリアルタイムテラヘルツカメラを用いて(図2)、東北大学農学部にてメンブレンフィルター上に、行列状の小分子化合物を固定化し、それらと特異的に結合したタンパク質の様子を画像として検出することに成功しました(図3)。これにより、タンパク質等の生体物質を迅速・簡便かつラベルフリーで検出できることが実証されました。このように画像で検査できることから、メンブレンフィルター上に多種の小分子や抗原を固定化しておけば、一回の検査で多数の生体物質との反応を同時に検出することも可能となります。

今後の展望

今後、さらなる、カメラの高感度化をすすめ、アレルゲン検査、血液検査装置としての実用化、創薬やライフサイエンスのためのハイスループットな分析ツールとして利用されることが期待できます。また、リアルタイム性をさらに活かし、反応途中の現象のモニタリングへの利用等、バイオテクノロジー分野で利活用できる研究ツールとして研究開発を加速する予定です。

補足資料

図1 従来法とTHz波による検出法の比較
図1 従来法とTHz波による検出法の比較

図2 テラヘルツ測定システム  図3 メンブレン上に固定化したDigoxin類縁体と抗Digoxin抗体との結合をTHz波の透過画像により検出した例
図2 テラヘルツ測定システム 図3 メンブレン上に固定化したDigoxin類縁体と抗Digoxin抗体との結合をTHz波の透過画像により検出した例

用語解説

量子カスケードレーザー技術

“カスケード”とは階段状に連続した滝を意味します。分子線エピタキシャル結晶成長(MBE)等によって作られた量子力学的階段(半導体多層膜構造)を電子が一段ずつ下りる毎に(サブバンド間遷移によって)発生する光子を利用する新しい型の半導体レーザを量子カスケードレーザー(QCL:Quantum Cascade Laser)と呼びます。

メンブレンフィルター

合成樹脂等で作られた多孔性膜で、膜上にDNAやタンパク質などの生体物質を固定することができます。

テラヘルツ領域

概ね0.1THz~10THzの周波数帯の電磁波を示します。その波長は、3mm~30μmであって、電波と光の境界に位置します。テラヘルツは、1秒間に1兆回振動する波の周波数、10の12乗ヘルツ(1012Hz)で、THzと記述します。英語ではterahertz(“tera”は10の12乗を表す英語の接頭辞)と書きます。

ラベルフリー

現在、タンパク質等、生体物質の存在(有無や量)を検査するためには、試験片上で小分子やタンパク質と選択的に結合させた後、化学発色や蛍光のための標識(ラベル)化を行い、その発色や蛍光を検出しています。このように検査に付加的な化学反応を必要とするため、時間がかかることから、ラベルフリーによる生体物質の検出が望まれてきました。

 

本件に関する 問い合せ先

新世代ネットワーク研究センター

寳迫 巌
Tel:042-327-6508
Fax:042-327-6941
E-mail:

電磁波計測研究センター

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広報 問い合わせ先

総合企画部 広報室

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