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テラヘルツ帯量子カスケードレーザとは

量子カスケードレーザー

量子カスケードレーザ(QCL)はサブバンド間遷移を利用した新しいタイプの半導体レーザです。“カスケード”とは、階段状に連続した滝を意味します。分子線エピタキシャル結晶成長(MBE)などによって作られた量子力学的階段(半導体多層膜構造)を電子が一段ずつ降りて行く毎にサブバンド間遷移によって発生する光子を利用します。発生する光子のエネルギー(周波数)は半導体多層膜構造中にできているサブバンド準位の差によって決まります。したがって、新たに材料を開発することなくガリウム・砒素/アルミニウム・ガリウム・砒素やインジウム・ガリウム・砒素/インジウム・アルミム・砒素といった化合物半導体では良く使われている材料系を用いて異なった波長帯のレーザを実現することが可能です。発生できる光子エネルギーの最大値は、材料系の伝導帯バンド不連続量で制限されますが、最小値には原理的な制限はありません。さらに、発光層の多段化によって、1度発光に寄与した電子を再利用して高い外部量子効率を実現し、高出力化が可能です。このため、理想的には出力は段数に比例することになります。

テラヘルツレーザの実用化へ

NICTは、この量子カスケードレーザのテラヘルツ帯応用に取り組み、デバイス研究および装置開発を進めてきました。そして今回、日本で初めてテラヘルツ帯量子カスケードレーザの発振に成功しました。ガリウム・砒素/アルミニウム・ガリウム・砒素系の半導体材料を用い、半導体の厚さを精密に制御しながら、4つの量子井戸から成るモジュール(量子力学的階段の1段に相当)を数百段重ねた発光層を持つ長さ3mm幅200ミクロンのレーザ素子を作成しました。480段の発光モジュールからなる素子は3.1THz程度で発振し、-234℃ではパルス動作のピーク出力で30mW程度の高出力を示しました。また最高動作温度は-150℃でした。これらの記録は世界トップレベルのものです。下に素子の顕微鏡写真を示します。

実用化へ

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